1999年の廃業から荒れ放題になっていたJR弥彦駅前に建つ旧やひこ観光ホテルの廃墟見学ツアーが31日行われた。当初、2回に分けて定員20人ずつ、40人で募集したが、申し込みが殺到し、大きく定員を上回る申し込みがあった。結局、1回を2班に分けて1班約20人、それを3回、繰り返して計128人が参加する大盛況だった。
旧やひこ観光ホテルは1967年ころに建設され、3回の増築が行われた。鉄筋コンクリート造の地上7階、地下1階建て。1999年に会社が倒産して廃業して以来、放置されたまま不審者が侵入してガラスを割ったり、内部を破壊したり、落書きしたり。心霊スポットととも言われるほど荒れ放題だった。
駅前の弥彦の玄関口に建つだけに、弥彦神社と弥彦温泉、弥彦競輪といった豊かな観光資源をもつ弥彦のイメージを大きく損ね、以前から解体を求める声が上がっていた。そのため弥彦村は8月に400万円でホテルを取得し、早ければ来年度にも解体したい考えだ。
解体に向けて大きく前進した一方、村民から解体前に同ホテルの廃墟ツアーの実施を求める声が上がった。長崎県の軍艦島に象徴されるように廃墟ブームが続いている。村ではさっそくその声に応えて廃墟見学ツアーを企画した。
参加者の過半数が村外から。同ホテルで結婚式を挙げたという年配の人も参加した。それぞれ自前で用意したヘルメットをかぶり、アスベスト繊維を吸い込まないよう念のため村が用意したマスクをつけ、参加者がいなくなったりしないように点呼をとってから出発。ヘルメットにマスクという異様な集団に、行楽客は何ごとかと目を見張っていた。
不審者の侵入を防ぐためにホテルの前面は金属板の塀に囲まれており、わきのスナック「クラブ シーサイド」部分から入り、幅1メートルもない破った壁の間をすり抜けて内部に“侵入”。塀のおかげで内部は真っ暗で、懐中電灯などで周囲を照らして進み、スリリングな展開を予感させた。
一気に5階まで上がってから下の階へ下りながら内部を見学した。ハイライトは5階のロイヤルルーム。1972年5月、旧黒川村で行われた全国植樹祭にために来県された昭和天皇皇后が宿泊された部屋。ここも荒らされて今では見る影もないが、部屋に残されたいかにも高級ないすに腰掛けて記念撮影する人もいた。
村では解体後の跡地を広場として整備する方針なので、5階の高さからの眺望も解体後は見られなくなる。大浴場、大広間、厨房、小宴会場などを順に見学。あちこちに割れたガラスの破片が散乱していたが、残された電話、雑誌、ホテルの名前の入った大きな杯など、あちこちに駅前ホテルとして観光客でにぎわった当時を思い出させる名残があった。
異様な存在感があったのが、Facebookの非公開グループ「廃墟部」の部員だ。新潟を中心に全国で1,300人もの部員を数える巨大なグループで、そのうち12人の部員が参加した。サバイバルゲーム用のヘルメットをはじめ、1日早いハロウィーンのようにコスプレかと思うような服装にもこだわりが強く、部員が集団で歩くようすは明らかに普通ではない。
部長は新潟市中央区で居酒屋を営む田丸美奈子さん(48)。昔から廃墟が好きでひとりでこっそりと楽しんでいたが、廃墟マニアの間では有名な京都大学の留学生寮「光華寮」を見学してフェイスブックに撮影した画像を投稿したところ大きな反響がった。
それならFacebookで仲間を募ろうと、廃墟部を立ち上げてからまだ1年半。部員はすでに1,300人を超え、「部員を把握できず、仕切れなくなってきた」と田丸さんは予想以上の反響にうれしい悲鳴だ。
県外にも部員が広がり、海外在住者も入部して海外の廃墟が投稿されることもある。オンラインで情報交換するだけでなく、これまでに五泉市の大沢鍾乳洞、阿賀町の持倉銅山の見学ツアーを行い、田丸さんの店で6、7回、オフ会も開いている。
今回のツアーを終わって田丸さんは「思ったより内部は新しかったけど、ふだん入れないところに入れたのが良かった。廃墟としてはまだ若いかな」とさすがは部長のコメント。「経年劣化だけでなく、人為的に荒らされている」と、マニアの視点で破壊には否定的だったが、「村がやるのはいい。廃墟ブームに行政が動いてくれるのはありがたい」と村に感謝した。
今回のツアーを村に要望した村民も、実は廃墟部員の阿部淳子さん(37)。村のホテル取得が報道されてからメールで村に廃墟ツアーの実施を要望。10月5日に開かれた村政懇談会に出席し、小林豊彦村長に直訴した。それからわずか2週間後、村は廃墟ツアーの実施を報道発表するというスピーディーな対応だった。
「要望が実現してびっくりしたけど、部員がみんな大喜びでうれしかった。言ったことをやってもらえる村になった」と喜ぶ。今回は廃墟ツアーの2時間前からヤホールで廃墟部の参加者のミーティングも企画した。「解体するまでは廃墟ツアーを続けてほしい」と阿部さん願っており、村でも条件が整えば次回も計画したい考えだ。
部員の会社員木崎昭男さん(34)は埼玉県狭山市に住み、廃墟ツアーに参加するために車で訪れた。16年前に東京の奥多摩にある廃村、峰集落を訪れて廃墟にみせられた。廃墟見学で北は宮城県から南は沖縄県まで廃墟見学に出掛けている。
木崎さんは「楽しかった。ホテル系の廃墟はバブルのころに建てられたものが多い。とくに伊豆に多く、間取りや迷路的な部分がおもしろい」と言い、「やはり廃墟は自然に朽ち果てているようすに魅力を感じる」と話していた。