[記事広告]
産業観光で新潟県燕市の工場をめぐる団体旅行客が、ものづくり現場に到着して初めて何を製造する工場なのか理解することもある。事前にレクチャーを受けることで見学先のイメージをもち、期待感を膨らませ、製品の理解も深まり、現場での注意も案内できる。燕市観光協会(山崎悦次会長)では、金属加工業の集積地である燕市内の企業と客の両者にとって好都合な橋渡し役となる産業観光ナビゲーターの育成、派遣に取り組み、大きく利用者を伸ばしている。
“産業観光ナビゲーター土橋さん”
燕観光協会の産業観光ナビゲーターのひとり、土橋朝子さん(45)は胎内市の旧中条町出身で、結婚して2013年に燕市に移住した。旧中条町にあった南イリノイ大学新潟校で学び、アメリカの本校へも約3年間、編入して英語も話せるようになった。胎内市ではロイヤル胎内パークホテルでフロント、喫茶、売店などで主に接客を経験しし、燕市へ移ってからは派遣で働いた。
就職を検討していたら燕市観光協会が産業観光ナビゲーターを募集していた。経験を生かして観光関係の仕事に就きたいが、土、日曜の勤務は避けたかった。「旅行が好きで人と接するのが好き。ありがとうと言われるのも好き」な土橋さんには願ってもない環境だ。
燕市へ移るまでは燕市に関する知識はほとんどなかった。「燕市の勉強が大変ですが、市外から来たわたしには身になっているし、燕市を知ることで燕愛が生まれている」と土橋さん。燕市のイメージは「切磋琢磨してスピード感があり、男性も女性も頑張ってる人が多い」。
バスの車内で移動時間内にすべて話し切ること、ただ話すだけでなく、楽しく盛り上げて話すことを心がける。「皆さんにほめてもらえると糧になり、もっと勉強したいという気になる」と、ほめ薬がいちばんのモチベーションだ。
「より深く物事を掘って学ぼうという意識が高まっています。最初は入れた知識を話すだけだったのが、最近は少し気持ちのゆとりができたのか、お客さんの目線に立ってわかりやすく、肉付けして話すことを気にするようになりました」と自身の成長も実感する。
“産業観光ナビゲーター派遣のきっかけ”
燕市観光協会が産業観光ナビゲーターに取り組むきっかけは、団体向けの地域交流型旅行商品「地恵(ちえ)のたび」だった。知恵と工夫で「まちおこし」に取り組む地域固有の魅力を旅行商品化し、全国にその情報を発信するプロジェクト。旅行参加者がまちづくりの取り組みで活性化するまちの魅力にふれ、学び、体験して地域との交流の輪を広げていくことを目指している。
09年に始まったプロジェクトで、12年からその第20弾として燕三条地域のものづくりの魅力を体感する「地恵のたび 燕三条」が始まった。燕市内の燕市産業史料館、小林研業、小林工業、三条市の諏訪田製作所をめぐる旅。その燕市のガイド役を燕市観光協会が派遣したのが始まりだった。
燕市内を移動するバスの車内で産業観光を案内できる人材を育成し、14年から正式に燕市観光協会の職員2人を産業観光ナビゲーターに任命。ことしは新たに昨年まで燕市観光協会職員を兼務していた燕市産業史料館の学芸員だった齋藤優介さんが燕市観光協会産業観光推進係長に出向して産業観光ナビゲーターも務め、これで五百川礼子さんと合わせて産業観光ナビゲーターは3人体制になった。
“見学コースの提案や見学先の予約の手配も”
ナビゲーターとして当時の案内だけにとどまらず、今では見学コースの提案や見学先の予約の手配も請け負う。ちょっとした旅行業者のような取り組みだ。
当初は商工会議所や各種経済団体など「視察」がほとんどだったが、旅行代理店が企画する「観光」が増え、とくにことしの秋から顕著と言う。「勉強」から「楽しみ」へシフトしつつある。
“観光ナビゲーターの案内客数は大幅増”
観光ナビゲーターの案内した団体客は、15年度の286人から16年度は前年度対比192%の549人、今年度は11月末までにすでに前年度対比124%となる679人にのぼる。今春からJR東日本による豪華クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」の燕市・玉川堂見学コースでもバスの車内での案内を産業観光ナビゲーターが担当しているが、この数字には含まれていない。四季島では訓練の運行を含めてことしは949人を案内した。
ことし初めて主に首都圏の旅行代理店に向けて「産業観光ナビゲーターと巡る工場視察」と題したちらしを作成した。見学を受け入れてくれる燕市内18社を掲載したマップ、「抜く」、「打つ」、「叩く」、「磨く」の金属加工の4種類の作業のようすを収録したショートムービーにアクセスできるQRコードも印刷している。
“ありのままの仕事場のようすが感動に”
齋藤さんは「ふだんの仕事場のようすを見せることが感動につながる。できる限り、より淡々と働く現場を見てほしい」と演出のない産業観光にこだわる。だから「工場は観光施設ではないので、酒気を帯びた人や興味のない人にはご遠慮いただいている。あくまで仕事にお邪魔させていただくという感覚」と話す。
産業観光ナビゲーターの取り組みを指揮したのは、燕市観光協会の井上亮事務局長。07年にJR東日本から新潟県観光協会に出向後、退職すると15年から燕市観光協会に勤務している。これまでの成果は井上事務局長の幅広いネットワークがあってこそと言って過言ではない。
「観光ボランティアガイドは、見学先でやっていることがほとんど。バスにまで乗り込むのは全国的にも珍しく、ほかにはない環境」と井上事務局長は自負する。「企業と見学者の橋渡しの役割を黒子として果たせれば」。
“課題もあるが次の一手は”
課題もある。産業観光ナビゲーターも、工場の騒音のなかで声を伝えるワイヤレスの通話システムも不足しているし、中国語に対応できる人材もほしい。今のペースで利用者増が続ければ、まもなくすべての要望に答えられなくなるのは目に見えている。
井上事務局長は「産業観光ナビゲーターによって燕のものづくりから生まれた製品が認知され、売れてくれればありがたい。受け入れ企業も増えているのもうれしい。これからも企業と一体となって取り組んでいきたい」と次の一手のプランを練っている。
一般社団法人燕市観光協会
住所/〒959-1263 新潟県燕市大曲4336番地(燕市老人集会センター内)
電話/0256-64-7630 FAX/0256-64-7638
Eメール/tsubame-kankou@za.wakwak.com