長岡市栃尾地域の下来伝(しもらいでん)集落で11日、春を呼ぶ越後の奇祭で知られる「ほだれ祭」が行われた。結婚して1年以内の初嫁8人がのるご神体のみこしを担いでハイライトを迎えたが、初嫁となった燕市に住む女性は、下来伝に縁のあった亡き父に結婚を報告した。
下来伝は栃尾地域の市街地からからほぼ南へ約7キロに位置する。ご神木で長岡市指定文化財天然記念物の「下来伝の大杉」の隣りの社にまつるご神体は、男根を模した長さ2.2メートル、重さ約600キロあり、「ほだれ様」として民間信仰を集めている。
ほだれ祭はことしで39回目。年に1度、ご神体を社の外へ出してみこしに載せ、その上に初嫁が乗って男衆が担ぎ、五穀豊穣や子宝、安産を願う。初嫁は公募し、多くは和服で参加。「しょいや、しょいや!」の威勢のいいかけ声とともに短い区間を担いで往復し、一般参拝者も含めて3人ずつ4回、計12人を担いだ。
ことし特別な思いをもって参加したのは、燕市に住む美容師の田辺あかりさん(37)。新潟市西蒲区の旧岩室村の出身で旧姓は熊谷。昨年7月に燕市の男性と婚姻届けを出した。三条市の繁華街で働いていたこともあるので、かいわいを飲み歩く常連なら「酒場カンテツのあかりちゃん」と言えばわかる人も多いだろう。
父の熊谷基さんは元小学校教諭。燕市の燕西小や三条市の井栗小に勤務したこともある。教頭になって初めて勤務したのが、来伝地区も学区に含んでいた旧栃尾市の入東小(2001年閉校)。3年間の勤務の間、地域の行事に積極的に加わった。ほだれ祭にも参加して、ポスターに使われた写真にも2度、写った。上来伝の菅原神社で行われる来伝天神合格祈願祭にもかかわっていた。
あかりさんは、中学生のころから父からほだれ祭の話を聞き、「結婚したら必ずご神体に乗ってみたいと、夢だった」。しかし父は退職から1年半ほどたった2012年、心筋梗塞(こうそく)で急逝した。
あかりさんは年齢的にもう結婚はないだろうと、岩室地域の実家の向かいに美容室を開いたが、縁があって結婚。ほだれ祭には一度も行ったことがなかったが、「お父さんの思い出的な感じで」と初嫁に応募し、夢をかなえた。
緑の和服を着て参加し、「最初は人の多さに圧倒された」が、「やっぱり人の力で持ち上げるのはすごいと思った。楽しかった」と感激した。
夫や家族も会場を訪れたが、生きていたら当然、父も訪れていたわけで、あらためて父への結婚の報告でもあり、「栃尾の集落の皆さんには、父に大変良くしてくれてありがとうございましたと言いたい」と感謝していた。