金属洋食器製造で国内90%以上のシェアを誇る新潟県燕市の金属洋食器製造業者でつくる日本金属洋食器工業組合(小林貞夫理事長・加盟29社)は、燕市の補助を受けてナイフの製造に欠かせない工程にもかかわらず地元では外注先が絶えてしまいそうになった自動研削加工を共同受注する事業をスタートした。自動研削機械を購入、組合企業に導入し、組合内の受発注を組合が一括して行い、職人不足に対応しながら安定的な製品供給を図る。組合で外注先を確保するという新たな段階に入った。
自動研削機は、株式会社金国(かねくに)工場(金子英一社長・燕市吉田法花堂)に設置した。金国工場は熱間鍛造などを手掛ける卓上ナイフ専門の鍛造メーカーだ。
研削加工は高速で回転させた砥石(といし)を工作物に押し当てて表面を削る加工方法。ナイフの刃の基本形状を作り、刃先の角度を均一に整える。その後に行う実際に切れる刃を付ける前作業でもある。
ことし1月、市内で自動研削専門の下請け会社が廃業した。従業員が後期高齢者となり、自動研削機も約50年たって老朽化。昨年の盆過ぎから急速に受注が落ち込み、その会社が金子社長のもとへ相談に訪れていた。
自動研削を内製化している会社もあるものの、この下請け会社が廃業すれば、地元にナイフ製造の仕事が来なくなり、金国工場の受注にも大きな影響がある。金子社長は「あんたたちがやめれば、うちもやめなければだめになる。お互いに連絡とりあっていこう」と対応を模索した。
半世紀たった自動研削機は、動いているのが不思議なほどの状況で、移設も不可能。新しい自動研削機の購入も考えたが、見積もりは約2,700万円と目の上に見積もりとても採算に合わなかった。
組合企業が所有する遊休状態の自動研削機があることがわかった。無償貸与を求める一方、小林理事長とも相談。自動研削を外注に出している組合のほかの企業にとっても一刻を争う死活問題であり、小林理事長は組合全体の問題だと判断した。
その自動研削機を組合で買い上げて金国工場に設置し、組合が組合企業からナイフ自動研削加工を受注し、金国工場に作業を委託するスキームをつくった。
遊休の自動研削機を購入、移設する費用は約1,300万円。燕市は、市内商工業の振興を図るため、市内の産業団体が行う商工業振興事業に要する経費の一部を補助している。急きょ昨年の9月議会の補正予算で事業費の1/2、680万円の補助を決めた。
4日、金国工場で共同受注開始セレモニーを行い、自動研削機のデモンストレーションも行った。自動研削機は、それぞれナイフの片面を研削する機械2台がセットになっている。1台で材料を研削してからもう1台にセットして研削。片面の研削はセットしてから十数秒で完了する。
鈴木力市長はあいさつで、燕市の名を世界にとどろかせた最大の功労者である金属洋食器産業は人手不足や技術の伝承で厳しい状況に置かれており、「この産業をしっかりと残すために行政も最大の支援をしなければならない」と「急きょ話しがあってから1カ月かからないぐらいの予算化だった」と対応を急いだことを話した。
これまで組合は、過当な競争を抑制してともに発展を目指した事業が多かったが、「今まではむしろ外注を囲い込もうということがあったかもしれないが、囲い込みではなく一緒になってこれを組み立てていくと。ある意味、大きく組合はかじを切った」と決断を評価。「この事業が成功して燕の洋食器産業が、これからもずっと発展していく、継続されていく、その大いなる貢献の日になればいい」と期待した。
小林理事長は「専門分野に特化した外注のシステムは、先人がつくってくれた大きな財産。これによってリスクが分散され、専門的に特化することで単価をより安く、速く、皆さんに安い商品、良いものを提供できる」と外注システムが燕市の洋食器産業を支え、苦境を乗り越えられたと感謝した。
一方で、2025年問題で外注先が次々と廃業。残っている外注先が廃業したら洋食器製造の業界全体が大きな影響を受けるぎりぎりのところまで来ており、洋食器産業に限ったことではないとはいえ、「うちらがいちばん早くそういった問題に直面して今、最大の危機を迎えているかもしれない」と強い危機感を示した。
「金国工場からもうひとつ大事なナイフの工程の自動研削も一緒に引き受けてもらうという提案があったおかげで、この奇跡が生まれたと思っている」と意義の大きさを強調。金国工場もこれまでひとつの工程で成り立っていたのが、ふたつの工程が可能になって継続性が増す第一歩ともなった。
「さらに今まで組合は外注先が卒業してもみんなの問題になることはなく、ばらばらだったが、今、同じ共通の問題、組合としてやるべき問題ということでこの事業が実行された」と述べた。