新潟県燕市は、燕市産業史料館の土蔵をミュージアムショップにリノベーションする改修工事を行っている。その設計デザインを発注した古民家を使った地域づくりで知られるドイツ出身で十日町市に住む建築士カール・ベンクスさん(82)によるワークショップとセミナーが9日、燕市産業史料館で行われた。
燕市は内閣府から令和6年度自治体SDGsモデル事業の認定を受け、ものづくりを核に若者、地域、企業が互いに集い、つながるための場を構築するのを目的に、燕市産業史料館に3Dプリンターなどの新たなものづくり機器の導入や土蔵のリノベーションに取り組んでいる。
全体の事業費は5,981万円で、うち土蔵のリノベーションが3,350万円。土蔵は広さ約20坪で、窓口と体験工房で販売しているミュージアムグッズや燕産品を集めて販売するミュージアムショップとして生まれ変わらせる。
土蔵は今は燕市の三王渕村の庄屋が米倉として1900年(明治33)に建築された。1986年(昭和61)に燕市産業史料館に移築して「工芸館」として活用してきた。
しかし、2019年の燕市産業史料館の大規模リニューアルで工芸館としての役割を終え、倉庫として使ってきた。古民家の再生をデザインできる人はごく限られており、著名なベンクスさんに依頼し、工事は地元の建築業者が行っている。昨年12月に着工し、3月中には工事を終わり、大型連休前の開店を目指している。
ワークショップとセミナーは燕市産業史料館が提案した。ワークショップは「親子でアートな土壁塗りワークショップ」をテーマに690×840ミリの木枠3つに土壁のアートパネルを制作した。参加募集は1日で定員に達し、親子12組のおとな19人、子ども16人の35人が参加した。
地元業者がそれぞれ木枠の中に格子状にタケで編んだ下地を作った。1枚は土を塗った上に燕市産業史料館50周年の「T」の字をモチーフにしたロゴを描くように子どもたちからビー玉やコルクを埋め込んでもらった。
1枚はわざとタケが見えるように半分ほどのスペースに土壁を塗った上に子どもたちから手形を押してもらった。1枚は白い漆喰(しっくい)を塗り、子どもたちからもこてを使って最後の仕上げをしてもらって3枚のアートパネルを完成させた。
指導者は三条市の建設会社、有限会社金虎組の元左官の白椿直之さん(73)。左官の仕事はすっかりなくなり、十何年かぶりにこてを持ったと言う。
久しぶりの作業に「切ねかったかな。思い出しながらさ。べと(土)はいいんだけど、タケをあれ?どんがやってしばってたんだっけと思って」と頭をかいた。作業を進めるうちにすっかり勘を取り戻し、「また次に仕事がきても大丈夫」と笑っていた。
ベンクスさんはリノベーションにあたり、「住みやすく、できれば見た目だけでも歴史がわかるように。完全にモダンではなく、ベースはそのまま残して」をコンセプトにした。
土壁は断熱効果が低いので、壁の中に断熱材を入れて土壁にし、内部は元は土壁に木が張ってあったのをしっくいに変更した。はりの存在を際立たせるなど古民家の魅力を引き出すようにデザインした。
ベンクスさんがこうしたワークショップを企画したことはなく、「すごくうれしい。日本の古民家はすばらしいもの。子どもたちば遊びながら古民家の魅力を感じてくれる」と喜んでいた。
このあとのセミナーは「よみがえる古民家」をテーマにベンクスさんが自身の経験や古民家を使った地域づくりの考え方、ドイツやヨーロッパの考え方、継続できる社会、使い捨てではない社会などについて話し、約60人が聴講した。