毎年6月初めに新潟県三条市で開かれる三条凧(いか)合戦を主催する三条凧協会(須藤謙一会長・30凧組)は、ことしも東日本大震災が発生した3月11日に福島県楢葉町のナショ名成るトレーニングセンター「Jヴィレッジ」で開かれた復興支援・追悼イベント「ソング・オブ・ジ・アース311福島」で、追悼の祈りや夢を込めた三条六角巻凧を揚げた。
「ソング・オブ・ジ・アース311福島」は、全国で被災地を支援する一般社団法人LOVE FOR NIPON(ラブフォーニッポン、キャンドル・ジュン代表理事)の主催で毎年開かれているイベント。ことしもJヴィレッジをメイン会場にアーティストライブやシンポジウム、キャンドルナイトなどが行われた。
三条市の斉藤巧さん(48)=スペースデザインタクミ代表=が新潟支部長のこともあり、2020年からイベントのプログラムのひとつとして「3.11 夢の大凧あげ」が恒例に。三条凧協会が福島の子どもたちから願いを込めた凧絵を描いてもらった三条六角巻凧を、三条凧協会の揚げ師も会場へ出向いて揚げている。
ことしは前日10日に双葉町でサルスベリの植樹式を行い、その植樹を植木の産地、三条市保内地区の凧組「保内植木組」が担当。そのため先発隊の三条凧協会の十数人が10日から現地入りし、11日は三条市からの日帰りと福島の凧組も加わり、総勢40人近くが参加した。
会場のJヴィレッジのフィールドには数百人が集まった。東日本大震災が発生した午後2時46分から黙とうをささげ、キャンドル・ジュン代表のあいさつのあと凧揚げを行った。
ことしは新たに、楢葉町あおぞらこども園、福島市立ひらの認定こども園、楢葉中学校、さらに石川県能登町と能登町町野地区がそれぞれ製作した5枚の凧が新たに加わった。
昨年1月1日の能登半島地震でラブフォーニッポンは能登町を中心に支援活動に取り組んでいる。昨年の夢の大凧あげには、能登町の能登高校の書道部の生徒が製作した2枚の凧を持ち込んで高校生らが参加。昨年4月にはあらためて能登高校でも夢の大凧あげを行った。今回も凧の製作だけではなく、10人余りが夢の大凧揚げに参加した。
主に東アジアでは、凧は古くから天と地、あの世とこの世をつなぐ存在ととらえられる。祈りや願いを天に届ける手段、さらには霊界との交流の象徴、神々の世界をつなぐ媒介ともされる。
凧揚げには十分過ぎるほど強い風が吹いた。カウントダウンして放った凧は一気に空へ駆け上がった。手形を押したり、「笑顔を忘れない」、「順風満帆」、「だいすきふくしま」などとある凧に込められた願いを天に届けた。
能登の凧の製作にあたった女性は、凧にのせた思いを話した。「今回、大災害によって自然も人々も大きな被害を受けてしまいました。願っても願っても元に戻ることはありません。しかし能登半島の人の心のどこかには能登の自然は美しい、いやしを与えてくれる、また戻ってきたくなるという思いは忘れていません。復興に向けてあらためて能登の人たちがひとりひとり手を取り合い、自然と共存し、一から新しい能登半島を再生していくということを願う」と声を詰まらせた。
新しい能登半島の再生を願って、能登の文字には石川県の無形民俗文化財に指定された祭りの文化の要素を加えた。背景には、自然が天高く力強く伸びて、能登半島の人たちは必ず返り咲くという願いを込めて手形で花を作った。
裏には復興に向けての思いのメッセージを書き、「天からも見えることを願い、福島の空へ飛ばします」と話した。
凧揚げには、あおぞらこども園の園児も参加して、自分たちが描いた凧が舞い上がり、初めての凧の糸を引く感触に「あがった、あがった!」、「頑張れ!」、「いけ、いけ!」と歓声を上げていた。
千葉県から参加したボランティアも凧揚げに挑戦し、「すごい楽しい。千葉まで飛んで行けそう」と子どものようにはしゃいでいた。このほか、ふたば巨大だるま引き合戦や夜はキャンドルナイトも行われた。