新潟県三条市で2021年に開学した三条市立大学(アハメド・シャハリアル学長)の初めての卒業式が22日行われ、第1期生70人が新たな一歩を踏み出した。
三条市立大学はイノベーティブテクノロジストを育成し、ものづくりのまち燕三条地域で活躍する人材の輩出を目指して、工学部技術・経営工学科(定員80人)の単科大学として2021年に開学した。
それから4年、初めて迎えた卒業式。卒業生70人のうち、就職希望者59人全員の就職が内定している。その59人の出身地は三条市1人を含む県内26人、県外が33人。就職内定先は、三条市内8人を含む県内26人、県外33人で、所期の目的に対して一定の成果をあげている。
また就職内定の業種はメーカー52%を最多に次いでICTの20%となっている。卒業式で卒業生はガウンを着てひな段に並び、学位記を代表の須貝玲斗さん(22)に授与した。
シャハリアル学長は式辞で、イノベーションのスピードが加速し、未来は予測困難な時代に突入してAIが文章を書き、ロボットが生産を担い、データが価値が生み出す社会では、何をしているか、誰かではなく、何を生み出せるか、どのように価値を創造できるかが問われている時代と見る。
そんな時代を進む卒業生に「挑戦を忘れないこと」、「感謝の気持ちをもって人を大切にする」、「学び続けていくこと」の3つの言葉を贈った。
「皆さんが歩む未来は決して平坦な道ではないかもしれない。しかし、本学で培った考える力、創造する力、挑戦する力があれば、どんな時代でも道を切り開いていける。これから社会の第一線で活躍する皆さんが三条市立大学の誇りとなり、新たな歴史を築いていくことを確信している。皆さんの未来が希望に満ち、輝かしいものであることを心から願う」と述べた。
卒業生代表で大井遙介さん(22)が謝辞を述べた。大井さんは、新型ウイルスの流行中に期待と大きな不安をもちながら入学したことから4年間を振り返った。
大学生活は決して平坦な道ではなかったが、貴重な学びと成長の機会を得ることができ、なかでも3年時の約4カ月間の産学連携実習が大きな学びになった。
「わたしたちはこれからそれぞれの道を歩み始める。どんな未来が待っていようとも、三条市立大学で経験したことを胸に自分の選んだ道に自信と誇りをもって進んでいきたい。そしてイノベーションで社会に貢献できるよう成長を続けていく」と誓った。
ほかに返還不要の奨学金に資金提供した一般財団法人高波龍風記念財団の高波久雄代表理事と株式会社高儀の高橋一夫元代表取締役社長に名誉学位を授与。三条市の滝沢亮市長から卒業生を三条未来創造大使に任命した。正面の大階段、アカデミックステップでいっせいに角帽を投げ上げるハットトスも行った。
卒業生代表で学位記を受けた須貝さんは、新潟県胎内市出身で大阪市の雑貨メーカーに就職する。「すごい挑戦の多い4年間だったし、企業のおとなの人と話す機会も多かったし、リーダーシップをとるような経験もできて本当に濃い4年間を送ることができた」。
2年生のときに学園祭の実行委員長も務めた。1期生で先輩がなく、「自分たちがやりたいことをどんどんやっていくっていうところで、主体性やチャレンジ精神が身に付いたと感じている」。就職で初めてのひとり暮らしを経験するが「緊張と不安もありながらちょっとわくわくしている」と笑った。
謝辞を述べた大井さんは山形県酒田市出身で、新潟市内のIT系企業に就職する。「企業で長期4カ月間のインターンシップで少し仕事をさせていただき、年齢差に関係なく、さまざまな人とコミュニケーションできる能力や確かな技術力がついたと思う」と自信を深めた。一方で「4年間で得ることができた学びをこれから入社する職場でもしっかりと自分の力を出せたらいいと思う」と気を引き締めた。
富山県高岡市出身で富山市の半導体メーカーに就職する牧野倫子さん(22)は「最初は人数が少ない大学で、ほかの大学生活とはちょっと違った雰囲気なので楽しめるかなというのはあったが、みんなアットホームで仲良くしてくれたのがいちばん楽しかった」。「卒業できてすごい幸せ。周りの人に感謝をこれからも伝えていきたいなと、あらためて実感する」と喜んだ。
三条市立大学は国定勇人衆院議員が三条市長時代に提案し、開学の道筋をつけたまさに三条市立大学の生みの親。「開学構想から始まって携わってきた人間として、本当にうれしく思っている」と国定氏はこれまでの歩みを振り返った。
「出産した感じ。本当に産みの苦しみを耐え抜き、いろいろなことがあったが、こうやって社会に育っていく卒業生を目の当たりにしたときに、女性じゃないけど子どもが生まれてきたっていう感じをもった」と感慨ひとしおだった。
初めての卒業生を送り出したシャハリアル学長は「とてもうれしい。卒業生から言葉をいただいたときに涙が出そうになったが一生懸命こらえた。平坦な道じゃなく、楽しいこともつらいこともたくさんあるけど、つらいのを全部、忘れた。楽しい思い出しか残ってない」とこれまでの苦労が吹き飛んだ。
「わたしたちは自分たちを信じているので、それは間違ってなかったということを何度も何度も再確認しながら進めるので、これからもそれを貫きたい。この延長線に何かがある。当たり前の延長線には何もないことをずっと信じてやまない。だからみんながやらないことをやる、試してないことをやってきたというのが、これまでもあったが、これからも同じ路線で続けたいと再確認している」と確信を深めていた。