|
第57回県展の工芸部門で県展賞に輝いた漆芸の若手作家、下田村塩野渕、渡辺裕之さん(31)。一方でジャズサックスプレーヤーとしても知られる異色の県展作家だ。 県展は3回目の挑戦。縦75センチ、横150センチの木のパネル2枚を蝶番でつないだ漆塗りの屏風「山繭」で県展賞に。漆黒をベースに、繭(まゆ)をモチーフに上部は朱で描き、下部は厚く塗った漆が乾く前に渡辺さんが指先で直接描いた幻想的な作品だ。 「繭は生き物の原点。繭から生命が育っている状態を表現し、上の部分の赤い絵は繭に命を吹き込んでいるものとして表しました」と渡辺さん。赤い絵は逆さまに見るとトリのようにも見え、「赤ちゃんを運ぶコウノトリ“命をもたらすもの”で、くちばしから命を降り注いでいるように表現しました」。 漆芸は塗りの技だが、渡辺さんは先人の芸を尊重しながら、厚く塗った漆が乾く前に直に指先で描いて表面に起伏をつけてデザインを施す独自の手法を得意とする。 「誰もが小さいころ砂の上に指で絵を書いた経験があると思います。この手法はまさにそれ。作品は頭で考えて描いたのではなく心から湧き出てきたものをそのまま表現しました」。 制作は下地づくりに一カ月。土台がなじんでから漆をといで塗り、乾かしては重ねて塗ってから一気に描きあげた。平面でありながら部屋を仕切る立体になる、そのおもしろさに興味をひかれて屏風を選択した。 東蒲原郡鹿瀬町出身。県立三条高校を卒業、新潟大学教育学部で彫刻を学んだ。海外で日本の文化の素晴らしさを再確認し、「人がやっていないことを」と富山県・高岡短期大学の漆コースで2年間、勉強。さらに石川県金沢市の漆工房で2年間、修行した。 平成10年から下田村に住む。「生まれてすぐ離れた鹿瀬町も下田のよう山と川に囲まれたところでした。自然はお金では買えないもの。ここは自分にとってリラックスできる空間を与え、夜は“漆黒”になり、私の作品はその一部を切り取らせてもらってます」と、下田の自然が制作のモチベーションになっていると言う。 一方でジャズのサックス奏者としても知られ、今もたびたびライブのステージに立つ。サックスは中学生のころから始め、音楽か漆か、どちらの道へ進むか迷った末に「作品が残るものを」と漆を選択。決心を確実なものとするために1年間、音楽を休んだこともある。 「漆は地味な仕事ですから、仕事の合間に気分転換にサックスを吹いています」。音楽も決して無駄にはなっていない。 |
スポンサードリンク
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■Copyright (C) kenoh.com Allrights Reserved.
|