燕市中央公民館では、3日から6日までの4日間、燕市文化会館2階展示ホールで墨彩画を描く画家、藤井克之さん(56)=新潟市西蒲区巻甲=の個展「燕市三十景 墨彩画藤井克之展」を開いており、燕のまちを時間とともに写し込んだ作品を展示している。
6日まで燕市文化会館で開かれている「燕市三十景 墨彩画藤井克之展」
サムホールから10号まで、燕市を描いた作品ばかり30点を展示。湯之谷村産の和紙に墨で線を描き、日本画材の顔彩で彩色。画面の空間を生かして、柔軟な線と柔らかな風合いの色で描写し、どっしりした構図にもけれんみがない。
合併した燕市の各地区でスケッチした作品がそろい、燕なら水道の塔、中ノ口川、燕駅の構内、吉田なら西川周辺、駅前ロータリー、本町風景、分水なら五合庵、おいらん道中、大河津分水の洗堰(あらいぜき)。そこに住む人たちのランドマークともいえる象徴的な風景が並ぶ。
古いものでは25年前に描いたものからある。月潟−燕間では1993年に廃止された新潟電鉄。藤井さんが県立吉田養護学校勤務だった時代に同校4階から弥彦山に向かって描いた作品は、今はパチンコ店などで埋まっている国道116号沿いに田んぼにが広がる。
そうしたはっきりした違いのあるものばかりではない。商店街や街並みの姿は一見、今とほとんど変わらないのに、作品は強い郷愁を放つ。そう感じたらすでに藤井さんの世界に入り込んでいる。
6日まで燕市文化会館で開かれている「燕市三十景 墨彩画藤井克之展」
「見る人が自分の感情をまじえて百パーセントになるような余白をつくろうと」と藤井さん。作品を通して見る人から「自分の人生をオーバーラップして振り返ってもらう」。鑑賞の目を通して藤井さんの作品は初めて完成する。
作品を見て、懐かしいと言われるのがうれしい。「芸術家はやめて職人としてやっていきたいのが原点」で、自己主張するのではなく、見る人に寄りそう。
展示作品より |
藤井さんは大阪芸術大学芸術学部美術科を卒業、油彩画を専攻。1980年から墨彩画の制作を始め、93年に日本中国水墨画代表作家出品、94年に第13回日本水墨画会展朝日新聞社賞受賞、01年にイスラエルシリーズ制作開始、東京でイスラエル大使館主催の個展「約束の地」開催と実績を積み上げている。
県内高校の美術教諭を務めながら創作を続けたが「自分の可能性を、どこまでできるのか見てみたい」と、40歳代前半で退職し、名実ともに画家に。公務員でありながら絵で収入を得ることに割りきれない気持ちもあった。
「正真正銘の絵描きになりたかった」と言い切る。「あしたやろう、あしたやろうで、作品がたまらない。このままでは死ぬときに後悔する」、「背水の陣で火事場の馬鹿力みたいに真剣にやるのでは」と教員を辞めて退路を断ち、自分を追い込んだ。
しかしそのおかげで、「公務員として生半可に絵を描いている状況では会えなかった人の出会いや体験があり、家族には迷惑をかけましたが、後悔はしていません」と決断に揺るぎはない。
次代へも思いを託す。「田舎の絵描きでもやっていけると、自分が道をつけたいと思いました。自分が行動を起こさないと、自分がその橋を先に渡って」と。
自身の作品を通して昔話に花が咲き、ひいてはそれが、まちづくりにつながることにも大きな期待を寄せており、「ぜひ若い人からも見てもらいたいですね」とふだんは絵にふれることのない人たちにも来場を呼びかけている。
また、同公民館では、5日午後1時40分から同会館で燕大学「芸術学部」を開き、藤井克之さんを講師に「墨彩画との出会い」をテーマに講演してもらうので、聴講も呼びかけている。作品展は4日間とも午前10時から午後6時まで、入場無料。