1日から16日まで燕市産業史料館で鶴巻貴子銅版画展が開かれており、銅版画家鶴巻貴子さん(33)=三条市南四日町4=初の地元県央地域での展覧会で、若くして海外でも認められた才能あふれる作品群が会場の空気を圧倒している。
展示作品は27点で、2002年制作の横長の作品「晴れの日のズレ〜春夏秋冬を偲ぶ〜」に始まる。鶴巻さんにとって銅版画の処女作でありながら、県展(新潟県美術展覧会)でいきなり最高賞の県展賞に輝いた。
「技法を学ぶために詰め込んだ」と鶴巻さん。銅版画は銅版の表面に傷をつけ、そこにでインクを入れて紙に写し取る凹版印刷の仕組みだが、この作品では銅版の上にモデリングペーストという材料を上に盛ったり、腐食をコントロールしてハーフトーンの濃度を調節できるアクアチントや線の強弱を表現できるソフトグランドエッチングを駆使したり。銅版画の基本的な技術、エッチングくらいしか知らない人は、その技術や表現の多様性に驚かされる。
先のグループ展で小品の版を展示したこともあり、燕市は銅器製造の伝統があるつながりから版の出展依頼を受け、この作品の版も初公開。作家にとっては種明かしのようなものだが、「楽しんでもらえたらと思って」と銅版画のおもしろさを伝えたいと願う。
この作品から時計回りに最新作までをほぼ制作年代順に展示する。紙に刷るのと同時に雁皮紙(がんぴし)を張り付けた作品を続けた時代があり、重厚なモノトーンからしだいに軽やかに、彩色も加えられた作品へと変化するようすも見てとれる。
2004年制作の「one life, one day(ワン ライフ, ワン デイ)」は、東京都・町田市立国際版画美術館、さらに米国議会図書館にも収蔵され、鶴巻さんへの評価を確固たるものにした作品。ことし制作した新作「Lumiere(リュミエール)」では、金属の粉をニスと混ぜて銅版に定着させたカーボランダムという技法で、にじみのような効果も見せてくれている。
鶴巻さんの母、純子さんは彫刻家で知られ、父も医師で彫刻家。祖父は三条市名誉市民で紙塑人形の創始者、三郎さん、さらに兄の謙郎さんも神奈川県で日本画家として活躍する芸術家一家に育った。
三条高校を卒業、東海大学教養学部芸術学科美術学過程を卒業、日本大学大学院へ進んだ。県展は2003年にも奨励賞を受け、2005年には早くも無鑑査に。海外にも出展し、個展も数多く開いているが、県央地域では今回が初めて。「こんな機会をいただいたので、地元の人から、たくさんの人から見てもらいたい」と鶴巻さん。「金属を傷付けるので、前に戻れない緊張感があり、それが表現力を磨いてくれます」、「金属のもつ硬質な感じも紙に吸い取られている感じ」と銅版画の魅力を話し、大勢の来場を待っている。
また、2日は午後2時から作品解説会を開き、鶴巻さんが作品の概要や制作について話す。さらに今回は9日午後2時から対談会も開く。同史料館学芸員が鶴巻さんと「銅版画の魅力を語る」をテーマに対談する。それぞれ参加は無料だが、入館券が必要。
会期中の休館日は3日(月)と11日(火)。開館時間は午前9時半から午後4時半まで、入館料はおとな300円、子ども100円で、土、日曜と祝日は、燕市内の小中学生と付き添いの保護者 1人が無料。問い合わせは同史料館(電話:0256-63-7666、メール:sangyoshiryokan@city.tsubame.niigata.jp)へ。