ことし6月に上京してフリーランスのイラストレーターとして独り立ちした燕市出身の力石哲郎さん(26)=杉並区=。ふるさと燕市内の新築住宅で壁面のイラストのデザインを依頼され、3日間かけてポップなアートを完成させた。
依頼を受けたのは完成して2カ月のぴかぴかの新築住宅。カンバスはキッチンを仕切る壁の前面。キッチンからダイニングを見通す横長の窓の部分が開いた高さ2.3メートル、幅2.7メートルの白い塗り壁だ。
頭に描いたイメージや決めごとはあるが、下書きはない。フリーハンドで直接、アクリル絵の具で描く。使う色は赤、青、黒、金の4色だけ。はさみ、テレビ、かさ、電球、フラッグなど、細部を省略してアイコン風なデザインをちりばめたように、頭のなかからパーツをひとつひとつつむぎだしては描き連ねていくうちに完成に近づいた。デザインの一部が欠けようとも遠慮なく、裁ち落としのように壁いっぱいに描いた。
そのなかに描かれたヤギを最初に描いた。今回の創作のポイントでもあり、ヤギは「I WANT NONE」「I WANNA TALK WITH YOU」と話しかける。何もほしくない、ただあなたと話したいだけと。「いろいろなモノよりも、家族と会話することに価値があると。ここはそういう場なので」と力石さんは意図を話す。
力石さんは、新潟デザイン専門学校を卒業後、フリーターしながら個展も開き、その後、 Tシャツやファブリックをデザインして販売する新潟市内の会社に勤め、イラストを描いた。一方で昨春、地元紙の法廷画家にも採用されるという経歴をもち、ことし6月に上京し、独立した。
今回は家を新築した夫婦が力石さんの作品のファンだった。だんなさんは老後は絵を描きたいという夢があり、奥さんも力石さんのイラストがプリントされた子ども服を買っていた。そのうちに奥さんの家族を通じ、同じ燕市出身のこともあって力石さんと親しくなった。
最初は力石さんのイラストの額を新居に飾ろうと思ったが、段々と話が膨らんで壁を描くことに。10月の初めにどの壁に描くかなどを打ち合わせただけで、あとはぶっつけ本番。力石さんはライブペイントで大作を描いたことがあるので、大きさに戸惑いはない。「決めるとこはきちっと決めて、あとはライブ感の良さっていうか、即興の良さも入れたいと思って」と休むことなく筆を運んだ。
何よりも「壁一面に描かせてもらったのが良かったです」と力石さん。「だんなさんが力石君の描くやつがいいんだって、お任せしてくれたんで」、「依頼側もすごいなーと思ってて。依頼するスピリットっていうんですか。すごい心が震えました。頼んでくださったのがうれしかった」とその英断、信頼を力に「感謝の念で絶対いいものにしたいっていう思いで描いてます」。完成間近になった作品を前に「いい感じですね」と顔をほころばせた。
独立して半年足らずだが、前の勤め先から仕事を回してもらっているのも力石さんの人柄か。「今のところは26歳なので、いろんなことをやってみたいです。50歳ぐらいから本番だと思ってます」。仕事には基本的にオープンで「いろんなことをして、いろんなことを経験してみたい」。「一カ所にとどまることができないタイプなので」と立ち止まることを嫌う力石さんのキャリアは始まったばかりだ。力石さんへの連絡はメール「tetsuro@sunny.ocn.ne.jp」で。