大雪が一服、青空が広がった18日夕方、仕事で燕市・燕地区の商店街へ出向いたついでに、生まれ育った町の今の季節の写真でも撮ろうかと、カメラ担いで付近をぷらぷら歩いてみた。このところ歩いて地元の歴史や文化を見て回る燕三条まちあるきが人気だ。それに深くかかわっている三条歴史文化担い手育成会の相場浩代表が、福島県南相馬市の原町区の駅まで「一人まちあるき」とツイートしているのをこの日、見かけていた。影響されやすい体質なので「俺も」と気分は一人まちあるきだ。
子どものころに何度も足を運んだマルダイ楽器。ふと2階に目をやると2階部分は趣のある建物。今で上を見たことは一度もなかった。昨年まで三条市「まんなかプロジェクト」で三条市の中心市街地の歴史的建造物調査が行われ、その調査報告書が作成されたのを思い出した。燕市でもそのままいけるのではと。
などとぶつぶつ頭の中で考えながら大通りを歩いていると、屋根の上に人影?!。なんと屋根の先端の鬼瓦の上に、七福神の誰からしい像が座っている!。逆光気味でよく見えない。これは仕事を抜きにしても確認しなければ収まらない。その屋根の真下にある食料品店、大万のガラス戸を開け、店にいた奥さんに「すみません、あの屋根の上にある…」と突撃取材した。
聞けば昭和8年に時計店「エビスヤ」がこの家を建てたときに、商売繁盛を願ってエビスの像を特注で作らせて設置したのだと言う。大万はかつて喫茶「ロンドン」の裏にあった米屋。30年前にこの土地と建物を手に入れたが、今となっては想像できないほどの金額をはたき、「必死になって働きました」と奥さん。
しかし、いわゆるシャッター通りとなってしまった商店街に「なんでこんなになってしまったんですかね。今は祭りのときしが人が出ません」と昔を懐かしみ、今を嘆く。一方で「店をやめないでくれって言われるんです」と車で移動できない地元のお年寄りなど、同店がなくなると生活に困る人も多く、簡単にはやめられないと言う。
雪を背負ってもエビスさんは満面の笑顔。鬼瓦にはコイも彫られている。つい見ている方が笑顔になるような、これ以上ないくらいの笑顔で80年間、商店街を見下ろしている。燕市に生まれ育って半世紀になり、大万の前はおそらく千回以上、通っているだろうが、初めてこのエビスさんの存在を知った。励ましだけではなく、ときには『上を向いて歩こう』だ。何事も視点を変えれば今まで目に入らなかったものが見えてくるかもしれない。