国土交通省主催の第7回交通の諸問題に関する検討会「地域公共交通のあり方を交通基本法とともに考えるシンポジウム」が13日午後、一橋記念講堂=東京都千代田区=で開かれ、地域の取り組みの事例紹介のなかで国定勇人三条市長と日の丸観光タクシー(株)=三条市東三条1=の西山丈基取締役営業部長が三条市のデマンド交通の事例を紹介した。
会場は事前に参加を申し込んだ約500人でいっぱいになった。冒頭、吉田おさむ国土交通省副大臣があいさついし、国土交通省総合政策局公共政策部の渡辺一洋部長が交通基本法案など今回のシンポジウムを説明した。渡辺部長は、毎年2,000キロずつ路線バスが廃止されることによって「買い物難民」が生じている地域公共交通の現状を述べた。
同部の石井昌平参事官が交通基本法案を解説し、交通基本法案は地域公共交通の理念と必要性を法的に定め、その役割と枠組みを明確にして地域の「足」の確保を国の第一施策としていきたいと述べた。
趣旨説明のあと、全国4つの先進的な取り組みの事例紹介を行い、そのトップバッターがが三条市のデマンド交通。国定市長は「雑談から入っていきますと、私はこの会場のすぐそば神田神保町の生まれで、この建物の向かい、如水会館で結婚式を挙げました」と場を和ませて本題に入った。
まず、三条市の公共交通が抱える課題を説明した。公共交通利用者数の減少から不採算路線のサービス低下につながり、公共交通利用者数の減少に続く負のスパイラル状態、マイカー依存、循環バス・巡回バスの利用者が減った。市町村合併と路線バス廃止などで交通空白地域の拡大、高齢化率が現在の「市民4人に1人が高齢者」(25.9%)が、わずか10年も経たない2021年には「市民3人に1人が高齢者」(33%)になる高齢化の進展、子育て支援や福祉事業における公共交通必要性の高まりがあるもののそれに応えきれていなかった。
これらの課題に対応するため、三条市は2008年3月に「地域公共交通総合連携計画」を策定し、国土交通省の地域公共交通総合連携計画策定調査事業の全国第1号に認定された。2007年度から5カ年にわたる地域公共交通活性化再生総合事業の取り組みを紹介したが、これは社会実験で、継続性も重要だがフレキシブルに対応できることこそが、こうした事業の効果が出やすいという考えを示した
デマンド交通については、利用促進と経費抑制の観点からの仕組みを説明。ここでも、大学などが開発した車の配車をマネジメントするデマンド交通のハード面のシステムは高価であり、それよりも身近なタクシー会社がそれぞれもつ配車システムを使うことにしたことを特徴に挙げた。さらに、この事例の最大の特徴ともいってよい既存のバス会社やタクシー会社の利害を調整し、共存を図っていく協議会などを説明した。
西山取締役営業部長がデマンド交通を担うタクシー会社側からの説明をし、利用者のメーンは通院が目的であることなど、実際のデマンド交通を担う利用者の実態を説明したうえで、あらためて国定市長がデマンド交通の成果を紹介した。
2008年の第1期には2けただった1日平均の利用者数が翌年の第2期には150人前後に増え、さらにことしは400人/日を突破するまでに増えた。2008年度と2011年度の見直し前後の比較で、循環バス・デマンド交通は年間5万1,000人が11万7,000人へと倍増以上の成果があったことを強調した。
同時に、きめ細かいサービス提供のために三条市の行政負担額は2008年度の6,670万円から2011年度は1億0,743万円と6割増加したが、利用者が増えたことも要因であり、利用者1人当たりの行政負担額は逆に3割減少させた。
さらに、統計的に検証が必要だと前置きしながらも、高齢者を中心にデマンド交通によって家族に送迎を頼らなくていい、外出機会が増えたといった移動の利便性が向上、高齢者が関わった事故が2008年の217件が2011年には175件に減少し、削減された。事故が削減されたこと(2008年217件だった高齢者関連の交通事故が2011年には175件に減少)を成果にあげた。
最後に今後の課題として、乗り合い率の向上、、運行管理の徹底、まちづくりとの連携の3つをあげ、とくに三条市(行政)とバス会社・タクシー会社(事業者)との信頼関係が崩れてしまうと、デマンド交通に関する協定が無実化してしまうこと、デマンド交通の運行には税金が投入されているため、市民からみても運営が健全である必要という点を強調した。
このあと、事例紹介は福井市、鯖江市、越前市での福井鉄道と3市の取り組み、茨城県日立市のデマンド交通(NPO法人による地域乗合タクシー)、岡山県笠岡市の離島航路での取り組みと続いたあと、交通の諸問題に関する検討会委員がコメントした。その多くは、三条市と日立市のデマンド交通に関するものだった。
秋山哲男北星学園大学客員教授は、三条市のデマンド交通について、人手で需要をさばききれる利用者のためにわざわざ高価なシステムを入れずに勧めた点を評価し、10万人ていどの年ならば1,000人の移動困難者がいるものと考えられるので、この困難者をしっかりと受け止められるような仕組みへと洗練させていくことに期待した。
大聖泰弘早稲田大学大学院教授は、デマンド方式はドライバーの人件費が高く、バス会社など既存の事業者とバッティングしないのか、介護資格をもつ乗務員がいるのかと質問した。
コンパクトシティ構想やLRT(ライト・レール・トランジット)でも知られる森雅志富山市長は、これからの地域公共交通は公費投入を避けられず、上下分離(鉄道で、線路や施設を所有して保守する会社と、車両を所有し乗務員を雇って列車を運行する会社に分けること)が必要であり、2007年施行の法律の重要性を強調した。このほか廻洋子淑徳大学教授、田中里沙宣伝会議取締役編集室長、検討会の座長である浅野正一郎情報・システム研究機構国立情報学研究所教授らもコメントや質問を述べた。
これらの質問やコメントに国定市長は、システムのモデルの姿が安定化するまで時間が必要で、またあれもこれもと支出を増やす策は良くない、収入と支出のバランスをとらなければならないと付け加えた。既存事業者のバッティングについては、協議会の場で市のプランより良いプランがあれば提案してほしい、それを真摯(しんし)に検討する話したが、バス会社からは提案がなく、それでもなお協議会で既存事業者の利害関係を越えた議論を信頼関係のうえで進めてきているとした。
システはICTを活用すればという声もあるが、初期はトラブルがあり、タクシー会社の配車システムを活用することでトラブルも激減した。最後に地域公共交通はこれが目的ではなく、スマートウエルネス三条推進計画の1分野であり、街中に人々を公共交通で呼び込みインフラとしての商店街を作っていくことが最終形でもあることを示した。事業者サイドとして西山取締役営業部長は2級ヘルパー資格を持っているドライバーが7割ほどいることを説明した。
後半のパネルディスカッションでは、西山取締役営業部長がパネリストのひとりとして登壇し、関係者の連携と協働について、関係者の役割と連携のあり方、住民の参加と支援のあり方にしぼって議論した。議論のなかで西山取締役営業部長は、市内5社のタクシー会社が統一の意識を持ちルールを決めそれを守っていくこと、行政側の説明会では足りない住民の理解にもタクシー会社がサポートして利用促進に一役買ったこと、あわせて市域のバス路線図と時刻表が印刷されたバスマップの実物を示してデマンド交通の市民への浸透を図ったこと、一方で過剰な広告をせずに通常のタクシー業では他者との競争もしっかりと確保し、さらに利用実態に合わせることでバスの利用者が減らないようにしたことも話題提供した。
パネリストの家田仁東京大学大学院教授は、住民参加という時の市議会議員などをどのように相手していくか、そしてこれらのサービスを空間的、時間的、金銭的にアクセス性を基準として「見える化」する重要性を協調。秋池玲子ボストンコンサルティングGパートナー&マネージングディレクターは産業再生機構でのバス会社再建に手がけた経験から徹底した情報開示の重要性を述べた。
モデレーターを務めた国土交通省総合政策局公共交通政策部交通計画課の水嶋智課長は「役所は黒子」であることを強調、このようなシンポジウムを各地で開催して、地域公共交通を考えるきっかけづくりをしていきたいと結んだ。