燕市産業史料館では、11日から27日まで初めてやかんだけを集めた企画展「やかん展」を開き、燕で作られた職人の手による美術工芸のやかんから大量生産されたケトルへと受け継がれる地元金属加工業の変遷とともに、日常に存在するやかんに新鮮な視点を与えている。
美術工芸のやかん13点とケトル15点のほか、ケトルの設計画ややかん説明図なども展示する。やかんは漢方薬を煮出す「薬鑵(やっかん)」が始まり。その後、湯を沸かす用途に使われるようになった。
美術工芸のやかんは薬鑵の趣を残し、その技は今も創業1816年の玉川堂=燕市中央通り2=などが伝える。玉川堂の五代目、玉川覚平の「湯沸口打出銀銅二重張」や人間国宝玉川宣夫さんの「木目金口打出湯沸かし」の技術の粋を凝らしたやかんが目を引き、胴に「玉川堂」の文字が浮き出す展示用の大水注も。
変わったところで、市町村制で燕町が生まれた明治22年から昭和37年まで約75年にわたって役場の湯のみ場で使われた湯釜や江戸時代のデザインが美しい燗鍋(かんなべ)がある。
現代のケトルでは、洋食器メーカー小林工業(株)=燕市南5=のケトル「Cook Master K-1」と「Cook Master K-2」が大量生産のケトルとして機能と美しさのひとつの到達点を見い出した。燕市の産業デザインの先駆けとなった荒沢紀一さんがデザインしたもの。そのことは荒沢さんが描いた設計画や説明図から読み取れる。ふたの低重心化、水切れのいい注ぎ口の形状、湯を出し切るために傾ける角度、注ぎ口がカーブを描いていることなどの秘密がそこにある。
洗練を極めた結果、アートとしての輝きも放つ。大量生産なので最後はデザインを図面に落とし、数値化しなければならない。それらが描き込められた設計画は、それ自体が作品のようにさえ見える。ティーポットのスケッチ画はまさに絵画作品。展示会場を見渡すことで燕のものづくりに対する昔も今も変わらないこだわりを感じることができる。
やかん展のイベントとして13日午後2時から3時まで荒沢紀一さんによる「やかんのデザインを語る」、27日午後2時から3時まで玉川堂七代目当主の玉川基行さんによる「地場産業を支えたやかんの美」とそれぞれ同史料館学芸員との対談会を開き、20日午後2時から3時まで学芸員による解説会を開く。
午前9時から午後4時半まで開館、会期中の休館日は14日と21日。入館料はおとな300円、子ども100円で、土、日曜と祝日は燕市内の小中学生と付き添いの保護者1人が無料になる。