燕市産業史料館は25日、企画展「やかん展」にかけて1日限りの夜間開館を行った。注目を集めたのは、ユリ・ゲラーに勝った山崎金属工業=山崎悦次社長・燕市大曲=製造のスプーン「コブラ」を使ったのスプーン曲げ。挑戦に名乗りをあげた地元の大道芸人「peace(ピース)」さんも「コブラ」を曲げることはできず、「コブラ」の完全勝利となった。
ふだん通り午後4時半でいったん閉館し、5時から9時まで夜間開館した。日中の入館者77人に対し、夜間の方が時間が短いのに89人の入館があり、駐車場は満杯になる盛況ぶりだった。
夜間開館では、斉藤優介学芸員によるやかん展解説会のあと、7時半から山崎金属工業の工場長、山崎修司さん(38)と斉藤学芸員による対談会を開いた。
4月29日放送のフジテレビ系の人気番組「ほこ×たて」で、超能力者ユリ・ゲラーさんが山崎金属工業のスプーン「コブラ」を使ったスプーン曲げに挑戦。ユリ・ゲラーさんは曲げることができず、「初めて曲げることができなかったスプーン」と負けを認めた。
山崎さんは、会社の歴史や仕事での経験、番組収録のようすなどについて話した。子どものころ、工場の研磨職人と一緒に風呂に入るのが好きだったことや、職人が熱したフォークでたばこの火をつけるようすが印象深かったこと。そして何よりも「みんな技術に誇りをもっていて、目をきらきらさせていて、ああいう環境で仕事ができるのは幸せだと思いました」と、職人の背中を見て育った。
番組収録については裏話もまじえておもしろおかしく話した。テレビ局からの最初の出演依頼は、金属を加工して洋食器を作るのが仕事なので「曲がらないスプーンはない」と山崎さんは断った。しかし、しばらくして再びテレビ局からのオファーがあって受けた。
テレビ局からスプーン曲げの挑戦者に誰がいいかと聞かれて「直球でユリ・ゲラーとやりたいと言った」。子どものころ、ユリ・ゲラーさんが好きだった。番組収録まで対戦相手を知らされず、相手はユリ・ゲラーさんではないと思っていただけに、スタジオで初めて本人に会って「めちゃくちゃうれしかった」。
しかし、目の前でユリ・ゲラーさんから曲げられないスプーンはないと挑発にするように言われ、さすがにかちんときたが、「コブラ」を見せると最初にユリー・ゲラーさんから「素晴らしいデザインだと言われたのがいちばんうれしかった」と山崎さんは白状した。
対談後はその「コブラ」を使って、来館者からスプーン曲げに挑戦してもらった。ユリ・ゲラーさんが曲げられなかった「コブラ」は同史料館に展示している。「コブラ」は欧州向けに約30年前に発売。人気もあったが円高が進んで採算が合わなくなり、発売から十数年で製造をやめた。
その特徴は5ミリ以上はある厚い柄。洋食器の基本的な機能としてはまったく必要のない厚さだが、社内のデザインチームがデザインを最重要視して開発した美しいフォルムだ。厚いステンレスを打ち抜くために金型もすぐにだめになり、加工が難しかったと言う。「曲がらないスプーンを作ろうと思ったことはない」(山崎さん)が、結果的に頑丈なスプーンになった。
会場から5人が手を上げて挑戦した。なかには「念力」ならぬ「怪力」で曲げようとする人もいたが、まったく歯が立たず、そのたびに斉藤学芸員は「コブラ〜!」と勝ち名乗り。最後に大本命のpeaceさんが挑戦した。
peaceさんは本名、佐野正喜さん(32)。2年前から大道芸一本で食べている。ファイアーパフォーマンスが得意だスプーン曲げもふだんから行っている。帽子をかぶり、マスクをつけた怪しいスタイルで登場。まずは百均ショップで買い求めたスプーン、フォークを使ってその技を披露した。
スプーンの皿と柄をを持ったり、柄を持って振ったりするうちにぐにゃりと曲がり、「おーっ!」と驚きの声と拍手。来館者に持ってもらった状態で柄を曲げたり、ねじったり、さらにそのままぽきっと折って見せた。
テレビでは目新しくないパフォーマンスだが、目の前で見るそれはまったく別物。何が起こったか理解できず、「ありゃりゃりゃりゃ!」と声を上げる人もいれば、笑い出す人も。そしていよいよコブラに挑戦だ。
まずは山崎さんと名刺交換をと、番組をほうふつとさせる場面で盛り上がった。直前にスプーン曲げを自分の目で確認しているだけに、「やばい」と山崎さん。peaceさんは右手に「コブラ」、左手に百均のフォークを載せたままの状態で曲げる技に挑戦した。
peaceさんは「思いの力だけで曲げていいます」と念を込め、しばくすると会場から「フォーク曲がってる!」の声。山崎さんの顔も険しくなる一方、「カモン、ベンド!」とユリ・ゲラーさんの口調をまねて笑いもとる余裕のpeaceさんに「どきっとするじゃないですか」と山崎さんは苦笑い。
「皆さんも曲がれというイメージをわたしくにください」とpeaceさんは加勢を求め、さらに集中。しかし、3分間たってもついに「コブラ」はびくともせず、「これでいっぱいです」とpeaceさんも敗北宣言。しかし左手に載せたフォークの柄は大きく曲がっていた。
会場はすっかりイリュージョンの世界に包まれて来館者は一体になり、「楽しかった〜」、「全然、わからなかった」と大満足。peaceさんは残念ながら「コブラ」を曲げられなかったが、来館者をとりこにし、「長年の修行の成果です」とにやり。山崎さんは「ユリ・ゲラーさんのこともあるし、曲がったらどうしようと思ってました」と山崎さんは胸をなでおろしていた。