つばめ福祉会が設置するグループホーム仲町=燕市仲町=に併設された地域交流スペース「つばめの茶の間仲町」で5日、全盲のハーモニカ奏者、大橋靱彦(おおはし・ゆきひこ)さん(67)=新潟市西蒲区葉萱場=が懐メロを演奏。約40人のお年寄りが来場して郷愁を誘う伴奏に笑顔いっぱいで合唱した。
大橋さんはキーの違うハーモニカを曲によって使い分け、ハーモニカを上下に重ねて吹くことも。『北国の春』、『青い山脈』に始まって『高原列車は行く』、『高校三年生』と、集まったお年寄りには直球ど真ん中の懐メロオンパレード。軍歌『同期の桜』、唱歌『浜辺の歌』も含めて1時間、たっぷりと演奏した。
参加したのは、グループホーム仲町の利用者や地域のお年寄り約40人。大橋さんが前奏に続いて「はいっ!」と歌い出しの合図をすると、配布した歌詞カードを広げてハーモニカを伴奏に歌った。若いころに覚えた曲は60年、70年たっても忘れない。言われるまでもなく、歌詞が口をついて出てきて、自然と手拍子でリズムをとった。
同所ではさまざまな音楽や芸能の発表が行われているが、これまでにない大きな笑い声が響いた。『浜辺の歌』には「おれ、女学校んときに習ったんだ」と懐かしさににこにこ。大橋さんが年齢とともに体力が衰えていることを話すと「ハーモニカ吹いてるうちはまだいいんですいね。わたしは90になりますいね」と会場から大橋さんの“若さ”を励ます声もあった。
大橋さんも「みんな上手に歌ってくれるから歌声喫茶に来たみたいですね」と喜び、アンコールで『月の砂漠』を演奏すると、大橋さんはさまざまな思いが込み上げて涙ぐみ、「わたしも絶対に不幸に負けないように頑張りますので」と来場者の健康も願って締めくくった。
大橋さんは元小学校教員で県職。42歳で難病の網膜色素変性症の診断を受け、40代後半から大きく視力が落ち、50歳で退職。死にたいとさえ思うこともあったが、手でふれた花の写真を撮るようになり、三笠宮崇仁親王から優秀賞を受けたこともある。
それにとどまらず、字を書きたいとパソコン教室に通ったあと、96年に自身でパソコン教室を開講。さらに13年前からハーモニカに取り組んでめきめき腕を上げ、数年前から福祉施設などで演奏のボランティアを行っている。大橋さんは車を運転できないが、今回は運転ボランティアが協力の初めて同所での演奏が実現した。