加茂青年会議所(高取成基理事長)は11日午後7時から加茂市産業会館で公開講演会を開き、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科の碓井真史教授を講師に「こどもと向き合う心の余裕なくしていません?」をテーマに100人余りが聴講した。
高取理事長はあいさつで、この講演会は青少年育成の推進事業の一環で、「皆さま方と一緒にこの地域の時代を担う子どもたちのためにわれわれも子をもつ親として、また地域で子どもとかかわるおとなして一緒に学びたい」と話した。
碓井教授は日本大学大学院後期課程終了、心理学の博士。文部省スクールカウンセラーで、テレビ新潟番組審議委員、元PTA会長。年50回以上の講演、地元のテレビ、ラジオのコメンテーターほか全国版のニュース、新聞、雑誌などにコメントが掲載されている。
大きな拍手を受けて登壇した碓井教授は、「そのたんびに思うんですけど、子どもたちにみんなにもこういうステージがあればいいのになーって」。しかし現実には、大きな拍手で子どもたちが包まれるという機会はなかなかない。拍手に包まれるだけで「すごく温かい気持ちになるんですよね。とても励まされているような気になるんですよね」とその効能を話した。
シンクロナイスドスイミングの選手だった小谷実可子さんが、調子がいいときは苦しい水中から浮き上がるときに、客の拍手や声援が自分の体を持ち上げるように感じると話していたことを紹介。「拍手や応援、声援っていうのは、ただの気休めではないですね」と言い切った。
「頑張れ」が禁句と聞くこともあるが、「頑張れ」と言っていいのは、その子の頑張りを知り、今の不安や緊張をわかっている人。言って悪いのはそういうの無視している人で、同じ「頑張れ」が暴言にもなる。うまくいってるときに応援するのは誰でもできる。そうでないときこそ応援団の出番。親の出番かもしれないと。
大阪の心斎橋で男が死にきれずに人を殺せば死刑になると2人を殺した通り魔事件をとりあげた。無差別、通り魔、大量殺人は優秀な人だったということが多い。外国では親の暴力下で育ったケースが多いが、日本では暴力はないものの親の愛情を受けていないと感じている。
犯行を起こすころはひとり暮らしか、家族と一緒に住んでいてもひとりぼっちのような生活をしている。満足できる仕事に就けず、周りはそうは言ってないのに、自分は最低な人間だと追い込む。その思いが強くなると最後にくるっとスリップして、悪いのはこんな俺にした世の中、家族、町のやつらが悪いと思うようになる。
今回もそうだが、秋葉原通り魔事件もそうだったように通り魔事件は繁華街で起きることが多い。秋葉原通り魔事件は存在を知らしめるためにネット住民の聖地で犯罪を犯した。今回は死刑になりたいと言うが、周りを巻き込もうという「拡大自殺」。通り魔は特定の人間をうらむほどの人間関係ももてない。悪の仲間さえいない。そのなかで一発大逆転をねらう。「俺の人生を終わりにして、こんな世の中も終わりにしたいと」いう発想になる。同じような環境で楽しく生きている人はいっぱいいる。
今回の通り魔は新たに5月下旬に新潟刑務所を出所したばかりの犯行というのも、碓井教授にはショックだった。新潟刑務所は凶悪犯が入るところではなく、碓井教授が会うのは模範囚で「人のいいおっちゃん」。ただ、人生のどっかでつまずいた。経済的、法律的、さらに就職で助けてくれる人がないため、ずるずる、つい犯罪に手を染めてしまう。
犯人は36歳。親もまだ若いはず。出所のときに家族が温かく出迎えてくれたら、「こんなことが起こるわけがない」。例えそれが悪の仲間であっても。その後も碓井教授は、経験から得た子どもたちの心の叫び、おとなの心の問題など実体験をもとに話した。
小柄な碓井教授だが、大きな身ぶり手ぶりと漫談のような情に訴える語り口で来場者を引きつけた。一般の来場者は子育て中のお母さんと教育関係者がほとんどで、近所のおじさんが話してくれているような、親身な言葉の数々に聴き入っていた。