6日から22日まで燕市産業史料館で開かれている「つばめっ子かるた原画展『黒井健が描いたつばめ』」にあわせて14日、燕市文化会館で「つばめっ子かるた」の原画を描いた絵本作家、黒井健さんによる講演会が開かれ、市民約150人が来場した。
黒井さんは新潟市出身の絵本作家で今春、燕市が「燕ひとつプロジェクト」の一環で制作した「つばめっ子かるた」の絵札を44枚の原画を描いた。講演会の前半では、そのかるた制作のエピソード、後半は自身の絵本作家としての歩みについて話した。
昨年春に燕市から「つばめっ子かるた」の原画制作の依頼を受け、秋にかるたに読み込まれた燕市内の場所を取材したことに始まり、完成したかるたをプロジェクターで順に映してかるたに込めた思いや作画の苦労を話した。
黒井さんは、水道の塔を描いたかるたが「最も人気が高いと聞いて驚いています」。一見、何の変哲もない建造物だが、その手前に背中を向けて水道の塔を見上げて座るイヌを配した。「イヌがぼうぜんと見てますよね。これ、わたしの姿ですから」と黒井さん。「飼い主を待っているような感じ」に仕上げた。
吉田天満宮のかるたでは、素材にした写真にあった露店の焼きそばの店をポッポ焼きの店に描き変えた。「なぜならわたしが(ポッポ焼きを)大好きだから」。煙管(きせる)のかるたでは、銅、漆、竹の質感の違いをどう表現するかが難しく、「時々、泣きが入って引き受けるんじゃなかったと思いました」と笑わせた。
後半では自身を「絵本作家」ではなく「絵本画家」と称し、「優れた作品に絵を添えるのが無上の喜び」。学研の総合絵本『よいこのくに』の編集をしていたが、絵本を描きたいと独立した。絵本作家山本まつ子さんを「師匠」と呼び、山本さんは黒井さんの作品をいちいちほめてくれて黒井さんの作品を打ち合わせの現場に持参し、関係者が目を止めてくれると紹介してくれたと言う。
『アンパンマン』で知られるやなせたかしさんや新潟県上越市(旧高田)出身の編集者中川勇さんとの出会いから絵本に向かう姿勢が変わり、画風も変わった。
それまで子どもが喜ぶかわいい絵を描こうと心掛けてきた黒井さんの転機になったのが児童文学作家新美南吉さんの作品を絵本にした『ごんぎつね』だった。この作品で絵本作家をやめようと取り組んだと言う。頭で編集したものを描くのではなく、「文章から感じたものをそのまま描いた」。
1986年、制作を終わると米国のミシシッピをカヌーで旅しに出掛けた。帰国すると『ごんぎつね』の再版通知が届いていて、あまりにも早い通知に驚いた。「やぶれかぶれで描いた自信のない本でしたんで、これは天の恵み、天の配剤としか思えないぐらい」うれしかった。自分が「思った通り描いていいんだっていうことを、本当に教えてくれた喜び」を『ごんぎつね』にもらった。その後『ごんぎつね』は小学校の国語教科書で教材の定番となり、黒井さんの代表作となった。
黒井さんはさらに宮沢賢治の『猫の事務所』やイヌの「ころわん」を主人公にしたシリーズについて話した。黒井さんのファンのほか、絵本の読み聞かせなど保育や育児で子どもにかかわる仕事に就く人の来場も目立ち、作品から感じることのできない黒井さんの創作に対する思いに聴き入っていた。