三条市役所三条庁舎市民ホールの市民ギャラリーで、3日から28日まで「日本一周笑顔写真展」が開かれ、「笑顔写真家」として注目を集める、かとうゆういちさん(26)=三条市島田2=が撮りためた笑顔が市民ホールの壁面を彩る。
かとうさんは1日午後、展示作業を行った。展示のテーマは「笑顔の花を咲かせる」。A1判を最大に持参した作品の中から18点を壁面に張った。市民ギャラリーは毎月、市民の作品を入れ替えているが、額入りの作品を下げて展示しており、じかに壁面に張ったのは今回が初めて。建物と一体化してずっと前からそこにあるかのようだ。
かとうさんは、新潟大学教育人間科学部を卒業した。大学の後輩、教育学部書道科だった小笠原麗さん(24)=新潟市東区=に書いてもらったタイトルの「日本一周笑顔写真展」や、色紙に「心」、「生」と書いた作品も写真と並べて飾った。
青々とした田んぼを背に笑う男女の写真がある。写っているのは、四国は香川県観音寺市の石川農園の夫婦。大学2年の春休み、石川農園に住み込みで1カ月半、農業を手伝った。その後、全国を旅するきっかけになった。日本一周笑顔の旅を始めた後、3年前、再び石川農園を訪れて撮影した。
降りしきる雪の中でそろいの真っ赤なエプロンを着けた女性8人が口を開けて笑う写真は、上越市のおしゃべり処「よってきない」で3年前に撮った。今はもう営業していないが、毎月1日に地元の主婦が集まって食事を提供する店だった。今も雪国の暮らしをテーマに上越市の取材を続けている。
京都府京都市北区の新大宮商店街のクリーニング店、花屋、八百屋、薬屋、手芸品、げた屋。それぞれの店を営む人たちが、かとうさんに笑いかける瞬間を切り止めている。
徳島県阿南市の漁師に船に乗せてもらって漁をする姿を追った。徳島県徳島市の家族は「生まれる」をテーマに笑顔だけでなく、子どもが眠り、涙を浮かべる表情も撮った。東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市の児童館で着物を着せてもらって喜ぶ子どもの姿もある。
作品は、かとうさんがレンズを向けた方向に存在したものと、レンズの前の人たちがカメラを構えたかとうさんに向けた表情を記録する。加藤さんの写真を鑑賞するとき、加藤さんと写真に写った人たちとの関係を疑似体験できる。
かとうさんは中学1年生で映画監督になると決意し、高校1年生で写真と映像を撮り始めた。大学4年生の春に就職の内定をもらったが、兵庫県を旅していて双子の子どもたちの満面の笑顔にシャッターを押した瞬間、「心に雷が落ちる」と、かとうさんは表現する。
就職をやめて2009年3月25日に日本一周笑顔の旅を始めた。当初は2年間の予定だったが、2017年までの8年間に延長。これまで3年半の間に12都道府県で笑顔を撮った。ことし4月には初めての写真集『僕らは今を生きている―東北の子どもたちからのメッセージ』を出版。写真展の開催、写真教室や講演の講師の依頼も増えている。
しかしふだんはカメラを持ち歩かない。知り合った人をいきなり撮ることはない。カメラを構えるまでに何カ月もかかるのは当たり前で、何年もかかることも。写真に写っている人の名前をすらすらと言えるのが、その証拠。「心が通った、血が通った写真が撮りたいから」と、かとうさんは言う。
笑顔にこだわるのは、「何かあったときに笑顔はプラスに変えていけます。どんな状況も心ひとつしだい。最後は笑顔で笑っていけたら」。裏返せば「つらいことを共有するよりも、人が生きていく喜びを共有したら幸せがもっと広がる」と。
最近、地元三条市でのふるさと取材にも力を入れる。今回の展示は三条市から照会があった。「いちばんうれしいのは生まれ育った町に自分の作品を展示できること」で「声をかけてもらえたことがうれしい」と、自身も飛びっきりの笑顔を見せる。「幸せを拾い集める写真家でありたい」と言い、展示作品を見た人には「心からの笑顔にふれること」を願っている。