燕市産業史料館では、5日から21日まで小山光秀漆芸展を開き、鞘塗り(さやぬり)を主たる生業とする漆芸家、小山光秀さん(59)=新潟市中央区=が制作した作品30点を展示している。
奈良時代に始まった「乾漆」と呼ばれる技法で作られた作品が中心だ。乾漆は、土や木の原型の上に麻布を何重にも漆で塗り固める技法。盛器、鉢、箱、水指などにその技術を注ぎ込んでいる。
朱漆の原料となる硫化第二水銀を巧みに操って色の濃淡や色味を変化させて幅の広い「朱」を表現している。
漆では難しいグラデーションに挑戦した作品もあるが最近、力を注いでいるのがストライプだ。「錫金貝(すずかながい)」と呼ばれるもので、今でいうマスキングを施してシャープな直線を描く。刀のさやの装飾では伝統的な技法「笛巻塗(ふえまきぬり)」を使ってある。
おもしろいのは本来、漆は器などすでに形づくられたものに装飾として施されてきたものだが、ストライプを施した作品はストライプのデザインが先にあり、それを生かす造形を創造しようと発想を逆転させた。
緩やかな曲面を描いた盛器は、ストライプと垂直に交わる形の波紋の造形と組み合わせた。現代と伝統、和と洋が入り交じったような、言い換えればカテゴライズしにくいようなユニークな世界観を見せている。
初日5日は小山さんを知る人が次々と来場した。小山さんは作品をひとつひとつていねいに解説して回り、「説明すると、くだらないんだけど」、「これでも結構、いろんなこと考えてるんですけどね」と頭をかきかきてれていた。
小山さんは学校を出ると新潟市の漆器問屋で2年間、下働きし、塗りの手伝いもした。会津若松の仏壇の製造販売会社で3年間、修行した。家が代々の重箱や膳といった板物の漆器の木地師だったこともあり、小山さんが塗りを覚えれば家族で漆器が完成品までできるという考えもあった。
木地師を継いだ兄の仕事を6年間手伝った後、刀のさやを塗る仕事を本業にしながら、30歳代半ば前から公募展への出品を始めた。今は日本工芸会正会員で、主に日本伝統工芸展と東日本伝統工芸展に出品している。
県内で何度か個展を開いている。11月6日でちょうど60歳になる。「還暦を前に個展をやりたいと思っていたので、ちょうどいい機会になりました」と今回の作品展を喜ぶ。
「だらしないんじゃなくて、シャープなんだけどやわらかい感じを表現したい」と小山さんは言う。伝統工芸という言葉からイメージされる威厳のある重厚なものよりも「軽いおしゃれな感じを求めている」。「作品にもシャイな感じが出てるかも」と笑い、「漆っていろいろなことが表現できることを知ってもらえればそれでいいと思っています」と、自身の作品以上に漆芸に興味をもってくれる来場者を待っている。
午前9時から午後4時半まで開館、会期中の休館日は9日と15日。入館料はおとな300円、子ども100円で、土、日曜と祝日は燕市内の小中学生と付き添いの保護者1人が無料。また、7日午後2時から3時まで小山さんによる作品解説会を開く。予約の必要はなく、参加は無料だが、入館料が必要。問い合わせは同史料館(電話:0256-63-7666)へ。