燕市産業史料館は、2日から18日まで長岡造形大学の美術・工芸学科の教授で金工作家、馬場省吾さん(55)=長岡市=の15年ぶりとなる個展「馬場省吾金工展」を開いており、燕市にもなじみの深い銅を主体に鉄も組み合わせた作品を展示している。
展示作品は15点で、3つに大別できる。人体の頭部、船、感官器。頭部は顔面の造形が中心で、後頭部は作らない。銅板を主に表から打ち出して作る。銅板の縁はそのまま、あるいは羽を伸ばしたような作品もあり、銅板から生まれた造形であることは一目でわかる。肌の質感の再現にまでこだわった息遣いさえ感じさせるようなマスクと無機質な銅板との間で見る者を混乱させる。
船の作品は物語性を込めた。船体は鉄で作った。9ミリもある鉄の板はそのままたたいてもびくともしない。真っ赤に加熱した状態で打ち延ばす鍛造の技術が欠かせない。理屈はわかっても、思い通りの形にするのは難しい。船体は三次元曲面を描いている。四角い穴を開けるにもマニュアルはない。試行錯誤するしかなく、アイデアが大事と言う。
感官器はここ3年ほど取り組んでいるテーマ。人体の内臓を表現する。上から見ると花器にも使える中心部分から3方向に耳のような形状が突き出す。突き出した部分はラッパのように内側を外側に大きく開き、中心部分の表と裏が反転する。「人間の構造上のおもしろさ」(馬場さん)を表現する。
人体は基本的にパイプ構造。初期の作品では生物の原形のイメージをイモムシのような抽象的な造形に重ねて表現した。その延長線上にもある。「金属の平面が立体になるときにいったん、パイプ構造になる。そういうものも似ている」と馬場さんは両者の相似に注目する。
作品を飾る台にも注目だ。今回の展示のために大学の学生にも手伝ってもらって制作した。台を含めてひとつの作品。船の作品の台は、細い鉄棒を組み合わせてあるが、「南回帰線」の台だけは天板に黒みかげの石を使った。展示室のスペースの都合もあって、外の窓際に展示しているが、台を変えた意味を考えながら鑑賞しても楽しく、中庭をのぞむ風景にある作品のたたずまいが展示室にあるのとは違った美しさや重厚感を見せてくれている。
馬場さんは1957年埼玉県大宮市生まれで84年に東京芸術大学美術学部工芸科鍛金専攻卒業、86年に同大学院美術研究科鍛金専攻(修士課程)修了して芸術学修士、87年に同大学美術学部工芸科鍛金研究室研究生となった。94年に長岡造形大学造形学部講師、同年に助教授、03年に教授となり、12年から同大学就学支援センター教務部長に就く。
出展はグループ展が中心で、個展は97年に東京の南青山のギャラリーで開いて以来。県央地域で活躍する金工作家の渡辺和也さん=燕市=や西片亮太さん=弥彦村=は馬場さんの教え子で、ふたり作風を知る人も馬場さんの作品がその源流にあることにひざを打つはずだ。
学生時代から平面より立体、それも人体を扱うことに興味があった。芸大卒業後は仲間とアトリエを共有して創作を続けてから縁があって長岡造形大へ。「見る人にもうひとつの世界観を暗示させる、ぎりぎりの人間の心理に作用するような作品が作れればいいと思っています」と言う。
ずっと現代工芸を手掛けてきたが、「最近、やかんを作ってみようかと思うんです。学生のときに言われて作ったくらいで」。原点に返ることで何か新しい発見や創造があるのではと期待する。一方で近年、忙しくて大好きなバイクのツーリングにも出掛ける時間の余裕もない、見るからにバイカーな馬場さんでもある。
会場を訪れた人間国宝の金工作家、玉川宣夫さん(70)=燕市=を訪れ、「彫刻的な作品だね」と盛んに馬場さんに技術について質問したり、逆に提案したりしていた。鈴木力市長も、「この角度から見るといい感じですね」とほれぼれと作品に見入っていた。
日曜の4日午後2時から馬場さんによる作品解説会が開かれる。予約は必要なく無料だが、入館料が必要。開館時間は午前9時から午後4時半まで、会期中は5日と12日が休館。入館料は300円、子ども100円で、土、日曜と祝日は燕市内の小中学生とその付き添いの保護者1人が無料。問い合わせは同史料館(電話:0256-63-7666)へ。