野田佳彦首相は8日、県内を上越市から北上して遊説した。午後4時からJR燕三条駅近くで行われた街頭演説会にも応援に訪れ、数百人が集まるなか、農業から経済、医療と介護、社会保障、外交と幅広く主張を話し、民主党への支援を求めた。
野田首相は、総選挙も中盤戦となり、新潟県はどの選挙区も「しのぎを削るデッドヒート」と情勢を分析。「わたしは新潟が大好きです」と、県内酒蔵の名酒の名前を次々とあげ、あまりもおいしいので日本酒を“国酒”として国家プロジェクトで海外展開していることから話した。
新潟のコメはうまく、おいしいものがいっぱいあるので、農業を成長産業にしなければいけない。「政権交代の前後で全然、変わったと思いませんか?」。農業者戸別所得補償制度を実施し、効果を上げ、政権交代前から農業所得は2割近く伸び、7年ぶりに農業所得が上がった。もっと魅力ある、競争力のある、成長産業にするのが第6次産業化で、「間違いなく農業を発展させるきっかけになります」。
日本の法人の99%は中小企業。働いている人の7割は中小企業。自民党は中小企業は宝だと言ってきたが、バブル崩壊後、中小企業関連予算は下がり続けたが、民主党は増やしてきた。総額は麻生政権の2倍で、もっと中小企業対策に力を入れたい。
自民党は商工中金の完全民営化、中小企業の資金繰りの命綱だった中小公庫と国民公庫を統合、縮小し、中小企業を捨ててきた。民主党は中小企業の資金繰りのために4兆円を使ってきた。これからも中小企業守り、雇用を守る。
成長分野としてエネルギーを考えている。2030年代の原発稼働ゼロを目指す。再生可能エネルギーは成長可能性は無限で、140万人の雇用をつくると思う。
医療、介護、健康の分野は3年間で85万人の雇用をつくり、さらに力を入れれば280万人の雇用をつくる。エネルギーと医療、介護の分野で400万人の雇用がつくれる。自民党政権時代は、いざなぎ景気を越えた戦後最長の景気と言っていたのに、給料は下がり続け、雇用形態は不安定ものが増えた。
格差は拡大、新しい貧困、ワーキングプアが生まれた。経済は成長し、企業の収益が上がっても、賃金が上がらず、雇用がつくれなかったら意味はない。民主党が考えるのは賃金を上げ、雇用をつくること。デフレ脱却のための需要は、エネルギー、医療、介護、農業、中小企業にある。そこに自民党のようなバラマキではなく、種をまいていく必要がある。
安倍氏はインフレの率ばかり考えてる。民主党は実質成長を考える。デフレ脱却には一定の物価上昇が必要だが、賃金より、給料より、物価が上がったらどうなるか。困るのは庶民。実質成長に力を入れなければ何の意味もない。「上っ面だけの成長では国民が困る」。
安倍政権のときに年金記録問題があった。消えた年金が2,860万件見つかった。1,300万人分、1兆7,000億円になった。1万円札にして積み上げると高さ1万7,000メートルになる。
小泉政権は社会保障費を毎年2,200億円、削った。今の制度を維持するだけでも毎年1兆円増やさなければならないにもかかわらず。その結果、医療崩壊、たらい回しが起こった。民主党は10年ぶりに診療報酬をプラスに改定し、手薄だった産科、婦人科、小児科、外科、救急医療、そして勤務医、看護師、介護従事者の待遇改善を行ってきた。
子育て支援にも力を入れてきた。子ども手当は満額に届かなかったが、チルドレンファーストの理念で交渉した結果、小学校6年生までの手当てが中学校3年生までに伸びた。子育て支援の総額は政権交代前の1兆円が2兆3,000億円になった。高校授業料の無償化も実現した。政治家の世襲も問題だが、自民党政権では貧困の世襲も起こっていた。高校授業料の無償化により経済的理由で中途退学する高校生は半分に減り、むしろ復学している。
人生のどこかで社会保障のサービスが必要になる。日本は国民皆保険、国民皆年金というすばらしい制度が生まれたが、支える人が減り、支えられる人が増えた。3人で1人から間もなく1人で1人を支える時代になる。支える人が元気に暮らしていかなければならず、だから人生前半の社会保障が必要。それが無くなればこの国に未来がなくなる。政権交代でそこが変わった。
今まで現役世代におんぶに抱っこに肩車だったが、それでも足りないから、子どもや孫のポケットに手を突っ込んで金を借りて社会保障をまかなうようになった。日本でいちばんの弱者は将来世代。そんな国に未来はない。
小泉政権や安倍政権の時代に政治決断すべきだったが、選挙にマイナスになるだろうと逃げてきた。だれもが必要とする社会保障を将来の世代にあずけるのではなく、みんなで負担しようというのが社会保障と税の一体改革。この社会保障を安心で持続可能なものとするためにも一体改革を進めなければならない。今、一票を行使することのできない将来世代を慮った政治を覚悟を決めて進めていく、それが民主党の若い人たち。
国民に負担を求める以上、国会議員も身を切ることを示さなければならない。定数削減で17回も協議を呼びかけたがまとまらず、ラストチャンスと思って党首討論で要請した。みんなの見てる前なので自民党も公明党も約束したが、民主党が力を失えば、定数削減を本気でやってくれるとは思えない。
外交については、歴代政権以上に毅然として主権と国益を守るために主張し、粘り強く交渉してきた。忘れてならいのは、大局観と冷静さを失わないこと。残念ながら力強い言葉を言えば、国民に受けるかのような風潮がある挑発主義、排外主義ではこの国が危うくなる。時計の針を戦前まで戻してはならない。今まさに分岐点と思う。
日本の周りにある6,800の離島に名前を付けて国有化をしてきたのが民主党。ほったらかしにしてきたのが自民党の政権。竹島にヘリポートを作らせたのは自民党。北朝鮮はまたミサイルを発射しようとしている。「しっかりと国民の命、財産を守り抜きます。お約束をします。そうした主権外交はわれわれにお任せいただきたい」。
国論を二分するようなテーマでも歯を食いしばって前へ進めていくのか、それとも時計の針を前に戻し、農業者戸別所得保障も高校授業料無償化も元に戻してしまうような政治に、昔に返るのか。今は大事な分岐点。
「雨の一滴一滴は小さな粒ですけれども、それが流れ出して、せせらぎとなって、小川となって、大河となっていくように、お集まりをいただいたお一人おひとりの力の結集」を呼びかけ、「わたしはこの新潟でマイクを握る機会はもうないと思います。全国の同志の応援に行かなければなりません。一期一会のお願いです」と支援を求めた。
野田首相は黒いスーツに白い手袋をつけ、街宣車の上から訴えた。暴風警報が出るほどの朝からの雪を伴った強い風は、幸い演説が始まるころにはいくらか収まったものの、いかにも寒そうな服装で25分間に渡って熱弁をふるった。
集まった人たちからは「その通り!」というかけ声も多く聞こえ、野田首相は車に乗り込むまでの間も支持者らと握手して支援を求めていた。