そして最後に訪れた大物政治家は、麻生太郎氏。投票日2日前の14日、三条中央青果卸売市場で4区・金子恵美氏の応援に訪れた。このときは“元首相”の肩書きだったが、26日発足した第二次安倍政権で副総理兼財務・金融相として見事リバイバルを飾った。今回の衆院選で県央地域を訪れた大物政治家のラスボス(失礼)にふさわしい大物の登場となった。
見た目の印象は意外性が最も高かった。テレビでは小柄に感じていたが、見たところ身長は170センチはあり、小さいという印象は受けない。小顔で肩幅があり、背筋をびしっと伸ばして立つ姿はとても72歳に見えない。聴衆から「意外とかっこいいね」という声が多く聞かれたのも、もっともだ。
コートを着ていたので、その下の超高級に違いないスーツが見えなかったのは残念だが、コートの胸にはイタリアのブランド、エレッセのロゴ。30年くらい前のテニスブームで、テニスウエアにもかかわらず、やけに値段が張った記憶がある。ちなみにエレッセと一緒にハマトラやベネトンなんて言葉も連想した。バブル前の懐かしい時代だ。
それはさておき、麻生氏の演説のおもしろさは図抜けていた。だみ声のべらんめえ調は、まるで漫談か、ときには講釈師のよう。投げ銭をしたくなるくらいの名調子でまくしたてた。
「今回、金子恵美が衆議院に立候補する、いう話を聞いて渡辺秀央先生やらなにやら、今回は間違いなくいい候補者を立てるからと言うから、渡辺先生、前、何とか、菊田がいいとか言ってたでしょうがと。あ〜ん?。あんた、女見る目ないから当てになりませんよって。わたし、信用しないね、渡辺先生の女を見る目はって。おれはそう言ったの。そしたら本人に会ってみろと言うから、そいでこの間、会いました。ほ〜、渡辺先生、趣味が良くなりましたね。間違いなくそう言った」。
言いたい放題。一方で「完璧な人間なんていません。完璧な候補者なんかいませんよ。必ず欠点はある。しかし、問題は、いい点があれば、それがどうやって先伸びするか、それが大事なとこ」と、なるほどと思わせる部分も多かった。
聴衆の雰囲気は演説の前後で大きく変わった。さすがは「半径2メートルの男」と呼ばれるだけある。遠くからは良さがわかりにくいが、親しくなって近くで接すると誰もがその魅力に引き込まれる。最初は麻生氏を物珍しそうに見ていた聴衆が、演説後は先を争って握手を求めて麻生氏を取り囲み、すっかり麻生ファンになっていた。翌日はまんまとあちこちで麻生氏の話をしたに違いない。
場所が市場だけに、演壇はトラックの荷台。トラックには自民党の赤いのぼり旗が立ち、どこかの闘争のような雰囲気も。なぜ、市場を演説会場に選んだのか確認するのを忘れたが、あまりにも麻生氏とはかけ離れたシチュエーションだった。
ご存じの通り麻生氏は麻生財閥の御曹司。ふつうにしていても何不自由のない生活を送れるはずにもかかわらず、あえて批判されたり、野次られたりが当たり前の政治家を選択している。そのモチベーションがどうやって生まれてくるのだろうかと、麻生氏の演説を聞ききながらずっと考えていた。
先の総選挙の雑感でも書いたが、自民党が勝ったのは当然の結果だが、それにしても自公で議席の3分の2以上は、勝ちすぎだと思っている。YouTubeでは、東京・秋葉原で麻生氏や安部氏が演説する動画が話題になっている。揺れる無数の日の丸。多くが若者だろう。演説に拍手や声援、「あーそーう!、あーそーう!」の連呼が響く。近未来のディストピアを描いた映画を見ているような薄気味悪さを感じた。
ついでに言えば8月に銀座で50万人もの人出を記録した五輪メダリストのパレード、今も続く都内での反原発デモ。この25日から行われる予定だった東京駅の光のショーは予想を上回る混雑が予想されたためにすべて中止になり、27日行われた中村勘三郎さんの告別式の一般弔問には1万2,000人が訪れて、途中で行列を締め切った。
今になって2012年は動員の年だったような気がしてきた。ジャーナリスト津田大介氏は今春、ソーシャル・メディアが世界で動員の形や力を変えていることについて書いた『動員の革命』を出版した。ソーシャル・メディアはそれほど関係しているとは思えないが、国内に動員されやすい土壌が育っているのではと、危うさを感じている。
話は脱線したが、そんなこんなで2012年も残りわずか。どこかの党が、ただでさえ忙しい年の瀬に選挙にするもんだから、ことしはさっさと年内に年賀状を投函するのをあきらめたじゃないか(半分以上、言い訳)。もっともそれこそ命懸けで選挙戦を戦った皆さまには申し訳ないが、これだけの大物政治家の演説をまとめて聞くのは後にも先にも今回限りのような気がする。貴重な経験をさせてもらった楽しい選挙戦だった。
政権が代わり、ひとまず円安傾向になり、株価が上がって経済に明るい兆しが見え始めた。民主党の総裁選に勝ったときの野田氏じゃないが、「ノーサイドにしましょっ」てことで、国会議員の皆さまにおかれましては、党派にこだわらず日本のためにご尽力をいただきたいと願うばかり。来年は明るい年となりますようお祈りし、ケンオー・ドットコムは年末年始も更新しますが、いったん、ここで中締めということで皆さん、「良いお年を!」。
(おわり)
p.s. この記事はいったん完成させながら誤って削除してしまい、再度、書き直しました。・゚゚・(>_<;)・゚゚・