美術の専門的な教育を受けない主に障害をもつ人たちが表現するアート「アールブリュット」にふれてもらおうと、NPO法人地域たすけあいネットワーク(加藤裕子理事長・三条市本町6)は4月15日までアールブリュット展を開き、地元燕三条地域の人たちの手による驚きにあふれた作品を展示している。
三条市4人、燕市2人、上越市、柏崎市、そして滋賀県の1人ずつの計9人の作品を100点近く展示している。いずれも何らかの障害をもつ人。まず驚かされるのが、知的障害の一方で優れた能力をもつ燕市・筒井貴希さんの作品だ。
寺泊の魚の市場通り「魚のアメ横」の道路に面した店舗の正面を横スクロールするように横長に描き、新潟駅や柏崎駅の駅舎の正面を描いている。絵にするには邪魔になりそうな派手な色合いの看板の文字やイラストなどの情報をきめ細かく、しかもアート感覚で表現しているが、驚くのはまだ早い。
これは写生したものでも写真を見て描いたものでもなく、すべて筒井さんの記憶だけを頼りに描いている。風景を見るだけでまるでカメラのように映像を隅々まで記憶してしまう。それを聞いてから作品を見るとただただ圧倒される。
「魚のアメ横」は3点を展示しているが、どれも記憶だけで描いたのに、色や形はまるで同じで、コピーのように見える。時間を置いて同じ場所を訪れて以前の記憶と違う部分をすぐに発見することができ、見つけると変わった部分だけを描き直して前の絵の上に張るという。作品は絶えず更新中だ。
三条市に住む高機能自閉症の石月誠人さんは、4歳からピアノを始め、2012年にショパンコンクール(一般部門)でアジア大会新潟県代表に選ばれたことで知られるが、描くのも得意で、鉄塔や架空の地図を描いたりしている。鉄塔は紙の余白を嫌うように紙にびっしりと描く。架空の地図は204枚を描いて完成するという設計で、架空の住所を線で結んで作っており、その集中力の高さに驚かされる。
滋賀県の戸次公明さんは粘土作品を作る。日本を代表するアールブリュット作家であり、信楽の世界陶芸祭で戸次さんの作品が記念切手に選ばれ、1997年にはスイスのアール・ブリュット・コレクションで作品が展示されている。
ほかにも三条市の人によるビーズ作品や怪獣の絵、抽象絵画、燕市の人によるコラージュ、上越市と柏崎市の人による絵画がある。いずれも美術をちゃんと学んでいないにもかかわらず枠にしばられない表現手法や独創性が見る者を引きつけ、アートとは何かをあらためて考えさせられるエネルギッシュな作品ばかりだ。
地域たすけあいネットワークは、たすけあいやデイサービス、訪問介護、障害者自立支援などを行っている。毎年、滋賀県で開かれている自立支援や障害者関連の全国的なイベント「アメニティフォーラム」に3年前から毎年、職員を派遣している。
会場ではバリアフリー映画の上映とあわせてアールブリュット展が開かれており、そこに燕三条地域の人の作品が展示されているを知った。それなら地元でも作品を紹介しようと今回初めてアールブリュット展を開いているもので、この機会にアートブリュットに対する理解を深めてもらおうと気軽な来場を呼びかけている。
入場無料で来場にはコーヒーをサービス。問い合わせは地域たすけあいネットワーク(電話:0256-34-2448)へ。