ことしの分水おいらん道中は、ばっちりサクラの満開にタイミングが合ったというのに、あいにくの雨。新しい試みも多く、期待感が大きかっただけに、何とも残念だった。会場を10年ぶりに屋内の分水総合体育館に移したため、主催者側は対応に追われた。そんななかでも収穫だったのが、地元の7つの日本料理店でつくる料理研究会「虹の会」が初めて考案した「きららん弁當(べんとう)」だった。
2週間余り前に事前に取材した。そのときは献立の箇条書きと試作品の写真を見ただけで、味はそこから想像するしかなかったが、ついに実食できた。
分水おいらん道中PR隊のマスコット「きららん」をデザインしたかわいい掛け紙を外し、ふたを開けた。「おーっ」と声を上げて驚いた。赤やピンクはじめ華やかな色合いの18の献立がぎっしりと折りに詰まっている。写真では見ていたが、実物はそれ以上に華やかな印象で、食欲をそそらされる。
実食すると、見た目の期待値に違わぬおいしさだ。言葉で伝えるのは難しいが、あちこちからサクラが香り、天ぷらの塩までピンクに染まっている。細部にまでさまざまな心尽くしやこだわりを凝らした。そうした趣向にいちいち「なるほど」、「そうきたか」などと感じ入りながら食べるのもまた楽しい。2月に三条市大島中学校で料理研究家でエッセイストの海豪うるるさんが講演したが、そのなかで海豪さんが話していた五感以外で感じるおいしさがそこにあった。
「料理研究会」だけに、一品一品の味のクオリティーも申し分ない。これで1,200円は驚き。2,000円近くても誰もが納得するはずだ。当日は雨で売れないだろうからと付き合いで買った人もいただろうが、当日の販売分はほぼ完売したようだ。「きららん弁當」を食べた人は、雨のおいらん道中にがっかりした気分もかなり持ち直したのでは。それくらい食べ物は人を幸せにしてくれる力がある。
三条マルシェで初めて感激したのは、ファストフード店のそれとはまったく異なる、ぜいたくなパティをサンドしたハンバーガーを食べたときだったことを思い出した。青空の下、道路脇の夜の店の玄関先のコンクリートに腰掛けて食べた。ジュッと肉汁が口のなかにあふれる。至福だった。幸福感はそれほど時間や手間暇をかけずとも、ちょっとした身近な所にあることに気付かされる。「虹の会」は折りにふれて日ごろの勉強の成果をこうした形で発表し、市民に還元してくれたらと願わずにはいられない。
分水おいらん道中はその日一日限りの勝負だが、分水おいらん道中を生かして通年で回していける観光的な取り組みができないものだろうかと依然から思っている。「きららん弁當」なら、例えば秋も地元の味覚の味覚を使って「秋三昧編」などとして企画しみるとか。分水なら秋に国上良寛茶会があり、その点心用の弁当を企画するというのも考えられ、そのときは「良寛弁當」もアリかも。このクオリティーでこの値段なら確実にファンが増えていくはずだ。これからの「虹の会」の活動に大いに期待したい。