燕市立吉田小学校(海藤英紀校長)の創立140周年を記念して今春、完成した新校舎の図書室を壁画家、松井エイコさんの壁画で飾ろうと19日、ガラスモザイクの取り付け作業が始まった。最終段階の29、30日は児童も自由に作業の現場を見学でき、めったにない壁画の完成のシーンに児童も立ち会う。
壁画を担当する松井さんは1957年東京生まれで、武蔵野美術大学油絵科を卒業。公共施設を中心に、人間をテーマに壁画、モニュメント、ステンドグラス、レリーフ緞帳などを創作。ガラス、金属、陶板、織物、タイルなどさまざまな素材を使い、これまで約140点にのぼる壁画を手掛けている。
燕市保育研究会が2010年9月、松井さんを講師に紙芝居をテーマに講演会を開いた。それが好評で、昨年6月の吉田小創立140周年記念の講演会に再び松井さんを招いたことなどをきっかけに、創立140周年記念事業実行委員会(霜鳥徳弘実行委員長)が松井さんに壁画制作を依頼した。
松井さんは、県内でも1990年ころに新潟市・中之口西小学校、長岡市・与板中学校で壁画を制作した。いずれも彩色画だったが、今回はガラスモザイク。実際の制作は、20年以上の付き合いになる造形工房mosaica=神奈川県横浜市=の主匠、薄井政俊さんと取り組んだ。
原画制作に半年をかけ、薄井さんの工房で床に実際にモザイクを並べて制作するのに2カ月。それを実質8日間かけて図書室の壁に接着するもので、19日はその初日。松井さんと薄井さんが吉田小を訪れ、松井さんが見守る中で薄井さんがガラスモザイクのタイルを壁に張る作業を始めた。
図書室の本来の壁一面の前に、教室を囲むように緩やかに弧を描く木製の壁が設置してある。それがカンバス。高さ2.8メートル、横は12.2メートルにもなる。その壁を水平に3分割し、上下はふじ色の1色のタイルを張り、実質的な作品はその間の幅1メートル×12.2メートルの部分。タイトルは「一人ひとりの輝きを」。一人ひとりの人間が輝いて生きていく姿を象徴する。
19日の作業は上下の部分に、約2センチ四方のタイルが30センチ四方のシート状になったものを一度に張り付ける形で作業を進めた。薄井さんが使うタイルは海外のものが多く、ふじ色のタイルはイタリア製という。
翌日からの作業は薄井さんが続け、29、30日は松井さんも立ち会って真ん中の作品の部分を作る。これも工房で並べたタイルに和紙を張り付け、それを適当な大きさに分割してシート状にして持ち込み、それを張り付ける形で作業する。29日は2学期の始業式。松井さんは児童の前で今回の壁画制作のプロセスなどについて話すほか、2日間の作業のようすは児童に自由に見学してもらう。
子どもたちが壁画制作の現場に立ち会うのはおそらくこれが一生に一度の機会。「今回いちばん最後の壁画が結晶するときに子どもたちが見る。そういったことは学校では初めてなんですね。壁画が産声を上げる瞬間に今の吉田小学校の子どもたちから見てもらえるということに深い喜びを感じています」と松井さんはそのようすを想像して目を細めた。
新校舎の建つ場所がまださら地だったときから、制作に向けて同校を訪れて打ち合わせた。壁画の魅力を松井さんは、「額縁に掛けた絵と違って、そこに生きてる人の気持ちがつながっていけるもの」と言う。だから作品のことを考えるより先に「吉田小が目指すことや土地の香り、ここに生きる人たちの思いや歴史、子どもたちの笑顔を思い浮かべて」原画を制作した。
「自分と壁画の人間を重ね合わせて、幸せば気持ちになったり、あしたから未来に向かってもう一歩、歩いて行こうかなとか、前に向かって生きていく力になれたらいいなって。それを目指してつくっているので、できあがったものを子どもたちから長い時間で見てもらって、生きる希望になってくれたらと。それがいちばんの願いです。まあ、そういうものにしなきゃいけないんですけど」と話した。