三条市のまんなかの特徴である小路について収録した法政大学大学院デザイン工学研究科の美学意匠論受講者と東京芸術大学大学院美術研究科デザイン専攻の学生とのコラボレーションで生まれたフリーペーパー『DAGODA(ダゴダ)』の完成発表会と今年度、三条市が取り組む「小路の魅力発掘事業」のプレゼンテーション会が27日、三条市中央公民館で開かれた。
三条の小路の魅力発掘事業には、地元の30人余りが参加してワークショップを行い、文字通り小路の魅力を発掘してきた。その一方で東京芸大を足掛かりに東京から三条の小路の魅力を新しい視点で見つけてもらおうと参加者を募るなかで『DAGODA』に出会い、『DAGODA』で三条の小路を特集することになった。
『DAGODA』は、法政大デザイン工学研究科の講師も務める芸大美術学部デザイン科・企画理論研究室の藤崎圭一郎准教授が2008年に始めたもので、昨年は休んだが毎年、発行。法政大が編集、執筆、芸大がデザインを担当する。4月にプロジェクトを開始し、毎週水曜に編集会議を行い、ことしの学生スタッフは法政12人、芸大4人。
27日発行した第5号の特集は「コモン」。フリーペーパーとはいえ、A4判変形で50ページあるフルカラー印刷の豪華な装丁で、印刷は2,000部。そのなかで三条の小路を「“まんなか”へ向かう三条」として12ページにわたって掲載。実際に三条市の小路を歩いて感じたまちの歴史や文化から、職人、かじまちの家、三条マルシェの取材、最後は三条取材メンバー5人による会六旅館での「取材後記的トーク」で締めくくる。
完成発表会には、藤崎准教授と三条取材メンバーのうち4人、「小路の魅力発掘事業」の地元メンバー10人ほどが出席。藤崎准教授は『DAGODA』制作の経緯などを説明し、今回は「コモン」を特集したことについて、パブリックでもプライベートでもない、その空間を利用する人が自律的に共同管理するものがコモンではないかと仮定した。理想的なコモンとして管理する住民だけの共有物ではなく、常に外に開かれている寛容さに民主主義的な空間があらわれていくのではとし、「小路の魅力」で三条市からお題を受けたが、コモンとして三条市、小路を見ていく形で記事をつくったと話した。
「小路の魅力発掘事業」のプレゼンテーション会では、三条チームと東京チームに分かれて三条の小路づくりの提案をプレゼンした。三条チームは、地域の人の意識向上を図る景観の改修、市民参加による小路の景観づくり、さらにまちなかの窓プロジェクト、1企業1ツリープロジェクト、ゆるいステージ・イベントスペースなど具体的な方策を示した。
東京チームは小路をひとつのコモンととらえ、人の感覚の微差を楽しめるかに着目。植物などで小路に特徴をもたせて季節の移ろいを感じる“識別”とかけた「小路四季別プロジェクト」、日記のように小路を撮影して記録して共有する“自撮り”とかけた「小路地撮りプロジェクト」、よそ者から目を向けてもらい、小路がカフェのようになる「小路千客万来プロジェクト」の3つのプロジェクトを話した。
藤崎准教授は、三条チームのプレゼンテーションについて、原風景は少しずつ変わっており、三条の特集ページの冒頭に使ったランダムに並んだマンホールのふたの写真や消雪パイプから出る地下水で赤さび色になった道路、電線などを「東京の価値観ではからずに」、「今まで価値がないと思われてたものを価値があるものに転換させていくような議論の深め方を」と求める一方、「世代を超えて語り合ってひとつのプレゼンテーションをするっていうのはなかなかできない試み」と評価した。
国定勇人三条市長は、『DAGODA』に佐賀県武雄市の武雄市立図書館の記事とともに掲載されたことを喜び、収録された三条の写真に愛を感じる、コモンは自分たちが進んでいこうとする価値観が真理に近いものになっていると自信をつけた、学生は短い時間で三条からたくさんのものを感じ取ったと話した。そして、三条の魅力は「若者やよそ者を受け入れ、みんなで咀嚼する力がまだまだ地方都市としては希有な形で残り続けているところ」とした。
アートディレクターで表紙デザインも任された芸大大学院修士1年の草壁一美さんは、『DAGODA』の編集で「何度も先生にダメ出しされて大変でした」。プレゼンテーションも学内では日常的に行っているが、外部での発表はめったにない。「今朝も3時までプレゼンテーションを手直ししていて、ここへ来る新幹線の車内でも練習してました」とほっと胸をなでおろし、「すごくいい勉強になりました」と話していた。