燕市産業史料館は1日から17日まで渡辺和也展を開いており、新しい境地を切りひらこうと工芸から造形へと大きく踏み出した金工作家渡辺和也さん(34)=燕市八王寺=の意欲的な作品を展示している。
作品は27点。「思うがままに、手が動くままに作った」と渡辺さん。頭に設計図はなく、「即興的」に銅を打ったり、切ったり、つなげたりした。言葉では説明できない何物でもないものが生まれた。
溶断で生まれた銅のくずも組み合わせて作品にした。以前の渡辺さんならただのごみでしかなかったが、意図せずに生まれたものでさえ自分の仕事の結果ととらえる。一方で三目並べのような作品もできたが、結果的にポップな作品になることも排除しない。
展示も即興だ。会場へ展示作業に来て展示用のケースや台をすべて片付け、作品を床に並べることを思いついた。適当に置いたひとつの作品を基準に次々と作品を並べ、1時間ほどで展示作業を終わった。最後に「どうしても棒状の作品がほしくなった」と作品を1点、制作して追加した。
「ものを通して場所を見る、場所を通してものを見ることを考えた」。空間ともののフィフティ・フィフティの関係を目指した。
渡辺さんは三条市に生まれ、燕市小池で育った。長岡造形大学で鍛金を学んだ後、燕市の鎚起(ついき)銅器製作の老舗「玉川堂」で5年間働いて06年に退社、アトリエ「鍛工舎」を設立した。
これまで工芸としての金工をきわめようと創作を続けてきた。県展奨励賞、日本現代工芸美術展の現代工芸賞を受賞。個展やグループ展を開き、実績を積み重ねてきたが、新潟市・「ギャルリー炎舎」のオーナーとの出会いから方向性に疑問をもつようになった。昨年暮れに「ギャルリー炎舎」で開いた個展で今回のような作品も展示し、大きくかじを切った。
今までの創作は「絵でモデルを描いたら、あとは作る作業で、予定調和」だった。「作品を作ってるのか、製品を作ってるのかと感じながら、あとは作業がうまくいくようにやっていた」。
作品を作る前に“創作”のほとんどは終わっていた。今は自分が「どれだけ自由になれるか」で、リアルタイムで構想を膨らませながらそれを形にしていく。それを渡辺さんは「常にベクトルの先端に心を置いておきたい」と表現する。
途中で切ったりつなげたりと、自由度の高い創作手法ができるのも金属のいいところ。15分でできた作品もあれば、「心が動かないとなかなか手が入れられなくなって3日もかかったり」。体よりも心を酷使し、「作業時間は短いのに、ずっと作ってるような感じ」だった。
作品にはテーマもタイトルもない。「今まで工芸、鍛金、鎚起を地でいっていたが、そういうものにしばられずにいたい。望んでないのに、その枠に収まろうとしていた」と振り返り、「工芸でも鍛金でもないく造形であることを存分に生かしてフレキシブルな作品を作っていきたい」と新たな意欲にあふれている。
4日は午後2時から渡辺さんによる作品解説会を開く。会期中は5日と11日が休館、開館時間は午前9時から午後4時半まで。入館料は、おとな300円、子ども100円。土、日曜と祝日は燕市内の小中学生は無料で、小学生の付き添いの保護者1人も無料。