弥彦の丘美術館は23日から3月23日まで三条市西鱈田出身の洋画家、中澤茂(1932-2010)の作品を集めた企画展「洋画家 中澤茂ー原色の美学ー」を開いている。
雪梁舎美術館=新潟市西区=所蔵の8点をはじめ、県立近代美術館・万代島美術館、大山治郎コレクション美術館=燕市=、三条市立図書館、個人が所蔵する中澤作品13点を展示している。
中澤は三条市西鱈田の農家の二男に生まれ、県立三条高校から東京芸術大学美術学部油画科へ進み、同大学油画専攻科を修了。中央の洋画団体、一水会に所属し、66年からメキシコで作画生活を始め、活躍。75年に一水会を退会すると、インド、ミャンマー、ネパール、スリランカ、ブータン、パキスタンなどアジア諸国に取材し、個展を開催、作品集を出版。04年から入退院を繰り返すようになり、10年に78歳で死去した。
中澤の作品の特徴は原色。チューブから出した油絵の具を混ぜることなく、そのままの原色をカンバスに塗った。色数が限られることが自由度を制約するが、その制約を逆に生かして絵画的表現を際立たせる。
最も古いのは68年、36歳のときの大作「老婆の高笑い」。雑踏の群像を描いたもので、画面の中心によりやや左に立つ老婆が右を向いて高笑いする。人々は老婆を引き立てるように配置され、老婆にだけスポットライトのように日差しが当たって浮き上がる。展示しているほかの作品と比べても圧倒的にタッチが荒々しく、描かれている人々の生活を象徴するようにエネルギッシュな作品だ。
光、そして空気感の表現も大きな魅力だ。ブータンの「網代の家に住む親子」(96年)は、逆光が斜面に腰掛けた母親の輪郭を輝かせる。家の向こうには緑がかすんで奥行きを表現する。ポスターにしたスリランカの「碧水に洗う」(06年)や中国の「橋畔柳色」(84年)は、画面の多くを占める水面の反射やきらめきが美しい。透明感にあふれ、絵画という表現手法でまるでそこにいるかのような空気感まで再現してみせる。
取材先は日本と比べれば貧しいアジアの国々が中心だが、そこで暮らす人々を物質的な貧しさとは無関係に、精神的には日本よりも豊かに生き生きと描いている。中澤が育ったは家は、当時は本成寺村。その農家に生まれ育った中澤にとっては、アジアの人々の生きる姿が自身の原風景と重なり、原風景を投影して描いたのかもしれない。
中澤がふるさとを描いた作品はあまり多くないが、「弥彦の寒雲」(88年)を展示する。手前の川の川岸には雪が積もり、奥に弥彦山、雲が目立つ青空が描かれている。画面の右端に燕市の水道の塔が小さく描かれていることから、燕市で県央大橋の三条側たもと付近から中ノ口川越しに描いたことがわかる。
弥彦の丘美術館が中澤を取り上げたのは初めて。一昨年夏に三条市歴史民俗産業資料館で開かれた企画展「高橋敬・中澤茂ふるさと作品展」を関係者が鑑賞したのがきっかけで、同美術館でもとなった。同美術館は作品を展示する専門の施設なので、照明も生かして作品の魅力を引き出すようにゆったりと作品を配置している。
開館時間は午前9時から午後4時半まで、入館料はおとな300円、小中学生150円。2月22日午後2時から作品解説を行い、3月9日午後2時からギャラリートーク「夫人が語る 作品の思い出」を行う。問い合わせは同美術館(電話:0256-94-4875)へ。