8日から13日までの6日間、三条東公民館で開かれている中村暢子書展で9日、書家の中村暢子(のぶこ)さん(45)=三条市月岡=は席上揮毫(きごう)を行い、来場した約百人は中村さんが作品を生み出すリアルな現場の緊張感を味わった。
中村さんは、かな書道で日展入選5回、読売書法展で読売新聞社賞も受けている気鋭の書家。今回の書展は、三条市若手芸術家支援事業の第1弾として開かれている。中村さんはこれまでも席上揮毫の経験はあるが、今回は「流れる」のテーマで展示している5×0.9メートルの大作の制作をあらためて席上揮毫で挑み、俳人橋本多佳子と歌人中条ふみ子の歌2点を書いた。
前日の開場式では、ゴージャスなファッションで華やかに演出した中村さん。席上揮毫では打って変わった動きやすいパンツでのぞんだ。「なかなか、これだけの方に見守られながら書くということはありませんので、いつも通り書けるかちょっとあれなんですが…」と言いながら、ふだんの制作とは真逆に来場者にぐるりと囲まれた衆人環視のなかで筆を走らせた。
橋本多佳子の歌は紙を横に使ってひざをつき、中条ふみ子の歌は縦に使って立ったまま書いた。まるで筆先が生きてるかのように緩急をつけて舞い踊るような運筆に、来場者は息を止めて食い入るように見詰め、書き終わると大きな拍手がわいた。
中村さんは、大作は日本画の下絵のように縮小したサイズのものを鉛筆でいくつも下書きし、気に入った構成のものを選んでそれに従って書くことを話し、あわせて実際に下書きしたものも見せた。来場者から誤って紙に墨を落とした場合の対応を質問されると、偶発性が思いがけない効果を生むことがあるので、あきらめずに最後まで書いてほしいと話し、自身の創作の手の内を惜しみなく紹介していた。
書道教室に通う市内の高校1年生の女子は、自身の書き方と違って「筆の先を割って書いたり、反動をつけたりして書いていた」と言い、試験で1カ月、書を休んでいたので、「もうだめ。うずうずしてきた」と創作意欲に火がついていた。