養豚場に取材した写真集『人(ひと)』を出版した燕市出身の写真家、渡辺一城さん(35)=東京都新宿区=の凱旋(がいせん)初個展「豚」が8月1日から31日まで燕市産業史料館で開かれており、写真集収録作品にふるさとで撮影した作品を加えて31点を展示している。
渡辺さんが98年に入学した神奈川県厚木市の東京工芸大学芸術学部写真学科キャンバスは、西風に乗って有限会社臼井農産の養豚場のにおいがすることがあった。それは生まれ故郷の燕市小中川で“豚団地”と呼んだ養豚場から漂ったにおいと一緒だった。
ことし7月に90歳で死去した祖父、笠原喜代平さんは98年まで夫婦で笠原精肉店を営んだ。子どものころの渡辺さんにとって豚は「日常で興味もない存在」で、高校のころに写真を始めても豚を撮ることはなかったが、大学で再び出会った養豚場で記憶をたどるようにシャッターを切るようになった。ついに昨年6月、写真集にまとめて自費出版した。
出版を記念して昨年6月、新宿のB GALLERYで個展を開いた。そこでは“食”をテーマに写真集に収録した作品を展示したが、今回は写真集の61点のうち23点に加え、新たに撮影した8点の計31点を展示している。
豚の皮や内臓、頭などを取り去った枝肉が並んでつり下げられている風景やロケットのような形の装置にまたがった種豚から精液を採取するようす。豚の肌のクローズアップ、群れる子豚、レトロフューチャーのような養豚場の内部など、写真集に収録した作品はつい息を止めて見入ってしまうような緊張感に満ちている。
新たな作品はふるさとで撮った。実家の裏の青々と広がる田んぼに弥彦山とちょこんと見える養豚場。取り壊し前の笠原精肉店の正面、取り壊し後のさら地に立ってもらった祖父母、笠原精肉店の写真を撮るのに同行した妹、新婚旅行記念で両親の写真がプリントされた絵皿の掛け時計。こちらは一転して肩の力を抜いて見慣れた風景をありのまま受け入れるようにとらえている。
写真集では、デュロックの横顔を撮った写真に祖父のイメージが重なり、デュロックに対比する形で祖父の写真を撮った。その写真を会場では向き合うように展示。それ以外も呼応する作品を向き合うように展示しており、渡辺さんの意図を考えながら鑑賞してもおもしろい。
作品のほかに祖父が使っていた包丁と研ぎ棒、笠原精肉店の包み紙も展示。「豚の生死と祖父の死がうまく言葉にできないけど何か重なる。自分のなかでは祖父の追悼展のような思いもある」と渡辺さんは言う。
同史料館の斉藤優介学芸員とは同い年で保育園から中学校まで一緒の友だち。「ふるさとでの初めての個展は史料館でと思っていた」と願いが実現したことを喜んでいる。
また、3日は午後2時からトークショー「MINI講演会」を開き、B GALLERYキュレーターの藤木洋介さんと斉藤学芸員をゲストに渡辺さんが講演、トークを行う。さらに17日は「渡辺一城 写真館」を開き、正午から午後1時までを除く午前10時から午後3時まで、渡辺さんが4×5判の大きなポラロイドカメラで1カット3,000円で撮影してくれる。
史料館は月曜が休館日で、開館時間は午前9時から午後4時半まで、入館料は高校生以上300円、小中学生100円。A4判88ページの写真集も税込み4,320円で販売している。