第3次産業革命と呼ばれるほどものづくりに大きな変化をもたらすとされる3Dプリンター。個人でも手に入るような20万円を切るような低価格機も登場した反面、プロのものづくりの現場では精度や速度の問題から試作品を作るていどのシステムという認識が広まった。しかし、金属加工メーカーの米山工業株式会社(米山隆明社長・三条市鶴田1)は今春、4,000万円を投じて県内唯一とされるほどの3Dプリンターを導入。最終製品の受注、製造にも成功して すでに採算ベースにのっている。
同社が導入したのは、ドイツ製の粉末積層造形システム「FORMIGA P」。積層厚は最小0.06ミリで精度を出すことができる。温度や湿度を一定に保つ必要があるため、3Dプリンター専用の部屋を作り、周辺機器も含めて4,000万円を投じて完成。1,000万円のものづくり補助金なども活用した。
導入した目的は、寸法精度確認用の検査治具を製造するためだった。製造した製品は、設計通りの完成したかどうかをノギスやマイクロメーターで測定するのが難しい場合があり、そのチェックを行うための専用の測りのような道具だ。
これまで金属製の検査治具を外注していたが、3Dプリンターで内製化しようと計画した。3年ほど前に本体が20万円ていどの3Dプリンターを買ったが、現場が求める精度にはほど遠く、「おもちゃでしかなかった」(米山隆明社長)。仕事に使える3Dプリンターを求めた結果、今回の3Dプリンターになった。この3Dプリンターの導入はおそらく県内では初めて、日本海側で同社以外にはもう1社しかないと言う。
導入してからいろいろなものを作って試すなかで、これまで真ちゅうから作っていたギアを3Dプリンターで作ってみたところ、精度や堅牢性にも問題はなく、3Dプリンターによる製造に置き換えることになり、思いがけず早くも最終製品の生産に取りかかった。
精度は問題ない。製造にかかるスピードもクリアした。予熱に2時間、積層に10時間今度は何時間もかけて冷やし、1回ごとに3時間くらい清掃作業が必要になるため、1サイクル24時間で運用している。しかし、インクジェト方式のように製造するものが下に着いている必要はなく、樹脂の粉のなかで作っていくので200×250×300ミリの製造空間のなかで自由に配置でき、直径20ミリ足らずのギアなら1回で数百個できる。現在、月産1万個を出荷している。
米山社長は、「機械加工では一気に三次元の加工ができず、金属ではいくつも工程をへないと作れない。3Dプリンターなら一発でできて、こんなに楽なことはない。値段も安くできる」。もちろん金属より軽いというメリットもある。月産1万個ペースで製造しており、「これだけで3Dプリンターを導入費用がペイするくらい」と、大満足だ。
同社はiPhone 4でチタン製のジャケットを製造して注目を集めたが、この3Dプリンターで作ったiPhone 5、5s用のスタンド「SMART STAND」(7,200円)を開発し、ネットでのオンラインショッピングを開始した。折りたたみ型でiPhoneを縦でも横でも立てられるようにしてある。
可動部分は3カ所あるが、それも含めて3Dプリンターで一気に作っているので、壊れない限りはずれることはなく、3Dプリンターならではの特徴を生かした設計だ。
「3Dプリンターは夢をつくるような感覚ではなく、現実をどれだけつくりあげるか」と米山社長は言う。「なかなかこのすごさが理解してくれる人がいない」と3Dプリンターに対する認識が低いことを嘆くが、それでも「少しずつウチの機械の性能をわかり始めてきたのではと思う。今まで金属加工で作ってきたもので3Dプリンターに置き換えられ、コストが下がるものは多い」と話している。