「14歳のときの自分が、今の自分が正しいか、正しくないかを判断してくれる」。三条市に住む布モノ作りのイカラシさん(32)は、中二で描いた夢をぶれることなく突き進んできた。そのイカラシさんが地元の人たちとともにつくる展示会「SHOW CASE(ショーケース) Vol.1」が21日から29日までの9日間、燕市吉田、ツバメコーヒーで開かれる。
イカラシさんだけでなく、イカラシさん地元に帰って出会ったり、紹介されたりした店の人たちの協力で、今回のイベントをイメージして選んでくれたものを展示。ツバメコーヒーの店内をギャラリーと考え、そこにいろいろなモノが並ぶことで、全体がショーケースのような空間になるというわけだ。
イカラシさんは麻のショップコートを展示。ツバメコーヒーと同じ建物の美容室「パリスラヴィサント」のスタッフもこのショップコートを着る。カスタムメードで生地の色やポケットの数や位置、えりの形、サイズ、袖や裾の長さをオーダーできるが、これといった特徴はない。イカラシさんは「無個性であることが大切。オーダーした人のもとに届いて育つ」と言う。
ほかの展示も基本は三条市から。古書店「真昼造船」(神明町)の古書、紙もの雑貨店「setia」(同市荒町2)のマスキングテープや雑貨類、「Cafe mui」(旭町1)のイカラシさんが作った型でつくる握りばさみ型のクッキー、進光鋏製作所(八幡町)の職人の手による握りばさみ。さらに長岡市のイラストレーター、チバコウタロウさんがイカラシさんをデザインして制作した今回の展示のポスターをエントランスに飾る。
毎日午前11時から午後6時まで、日曜と祝日、最終日は午後9時まで開き、イカラシさんもずっと会場に張り付く。
週末や最終日はイベント満載だ。21日は午後6時半から参加費500円でイカラシさんと今回のフライヤーを制作したデザイナー西村隆行さん、ツバメコーヒーの田中辰幸さんによるパネルトーク。22日は午後7時から参加費2,500円で「くぅ象」の料理とフリードリンクのレセプションパーティー。
23日は午前11時から「ホリウチおやつ」の出張販売、正午から参加費1,000円でマイカップを入れる巾着を作ってシルクスクリーンプリントのワークショップ。24日は午後1時から5時からの2回、30分ていどの制作実演。最終日29日は日暮れころからつばめキャンドルナイトで、つばめキャンドルによるキャンドルワークショップとはっぴーザウルスによるランタンワークショップをそれぞれ参加費500円で行う。
「誰かとつながって相乗効果が生まれたらいい」、「こういう舞台をもって表現することが、ひとつのまちづくりになると思う」。作品展を目前にイカラシさんのイメージは明るい。
ちゃんとした服の作り方を1日でも早く覚えたいと見附高校家政科へ進み、「誰かからわたしが必要とされたときに必要になるものを準備しておこう」と東京の文化服装学院へ。学校に通いながら好きなデザイナーのアシスタントに就いた時期もある。
かばんとアパレルの会社の立ち上げを手伝ったり、ニューヨークで働いたり。2013年9月、自分の存在を確かめようと東京の雑居ビルで初めて個展「ここ」を開き、東京で活動を続けるには雑音や情報が多過ぎ、金がかかり、違和感もあって12月に三条市の実家へ戻った。
ことし4月から活動を再開し、積極的に手掛けたい東京の仕事を続けながら、紙もの雑貨店でのワークショップを皮切りに、三条市内を中心に各地でワークショップを行い、個人からの洋服のオーダーも受けている。今回の展示は、ツバメコーヒーの田中辰幸さんとの会話のなかから話が進んだ。
中学2年生のときに出会った女性ファッション雑誌『Zipper(ジッパー)』が運命を変えた。原宿系のファッションを提案し、個性的なファッションが誌面を飾り、奇抜なセンスに「こういう表現の仕方があるのかと思った」。そこでファッションの道へ歩むことを決めた。
14歳のときの初期衝動がイカラシさんにとって原点であり、今も羅針盤であり続ける。「こんなことをやるために14歳のわたしはやってきたんじゃない」、「14歳のときの自分が、選択が正しいか、正しくないかを判断してくれる」と、壁にぶち当たり、岐路に立つたびに14歳の自分に問いかけた。
ふるさとでの活動の再開にあわせて「と イカラシ」の名義で名刺を作った。「誰かの名前“と”わたしの名前が並ぶものづくりがしたいという意味で、それはお客さんと対等な関係でものづくりがしたいということ」。
人とのつながりのなかでモノが生まれる面白さや、向合うことでモノを大切にする土壌ができるのではないかと考える。三条だけで活躍する気はなく、ベースとして三条を意識してどんどん遠くに発信していきたいと言う。