36年ぶりの弥彦村長選は、新人の小林豊彦氏(69)が現職の大谷良孝氏(58)に思わぬ大差で勝利した。両陣営とも小林氏勝利なら接戦と思っていただろう。小林氏3,204票、大谷氏2,508票で700票差。接戦というには票差が大きく、小林氏の完勝と言っていい。結果が決まると人なつこい笑顔がトレードマークの小林氏の表情は厳しさを増し、大谷氏のぼうぜんとしたようすも、意外な結果を象徴していた。
構図は大谷氏が圧倒的に優勢だった。3期12年間の実績や人脈を生かして地元団体をはじめ、地元の政治家や近隣の市長の支持も取り付けた。目立った失政もなく、安定感がある。しかも小林氏より10歳以上も若い。負けるような大きな要素は見当たらない。支持者の誰もが勝利を確信していた。
一方の小林氏は、行政経験がない。村長としての手腕は未知数だ。小林氏にとっては、無投票による多選、4選阻止が大きな出馬の動機だった。そして村政の透明化や刷新。目玉として木質バイオマス発電の実現を打ち上げたが、大谷陣営からはその実現可能性を問われ、トーンダウンしたとも言われた。
選挙戦での小林氏の強みは、地元の同級生だった。同級生もすでにリタイアしているとあって、選挙を手弁当で手伝ってくれた。選挙事務所は毎日が同級会のようで、笑い声が絶えず、大谷陣営とは対照的に草の根選挙だった。
どちらの陣営にとっても大谷氏が有利に展開し、小林氏がチャンレジする形の選挙戦になると映っていたはずだ。保守的な傾向が強いであろう弥彦村でも、もう旧来型の選挙戦の優劣を決める構図は通用しなくなってきているのだろうか。
36年ぶりに選挙になったこと自体が小林氏の追い風になった。小林氏は「チャレンジ弥彦村」をスローガンに弥彦村に新しい風をと訴えた。村民が変革を求めた結果ということなのだろう。
大谷氏にとっては、燕三条JCによる公開討論会が開かれなかったことが悔やまれる。大谷氏の日程の都合があったようだが、大谷氏は手柄を吹聴するような人柄ではない。公開討論会は大谷氏が3期12年間の実績を訴えるには格好の場になったはずだ。
大谷陣営を訪れた国定勇人三条市長は、今回の結果を先の佐賀県知事選に重ねていた。国定市長は今回、初めて選挙の敗戦の場に居合わせた。佐賀県武雄市の前市長で国定市長の盟友、樋渡啓介氏が立候補し、有利に選挙戦を展開しながら終盤で一気にひっくり返され、思わぬ大差で敗れた。この2つの選挙に国定市長は「勝ち馬に乗る」流れの怖さを実感していた。
36年前の村長選は村を二分する激しい選挙戦となり、その後のしこりも大きかったという。両候補とも“麓”と呼ぶ同じ集落に暮らす。“麓”はかなり激しいつばぜり合いが演じられたらしいが、村内は穏やかだったように見える。それでも選挙戦が終わって「落ち着いて眠れます」という声があるのも確か。
いずれにしろ選挙戦を勝ち抜いた小林氏は、無投票だった36年間の村長には与えられなかった正統性を獲得した。それだけ村民の負託に応える責任も思いが、自信をもってあらゆることに大なたをふるえるはずで、その成果に期待したい。
ひるがえって昨年は燕市と三条市でも市長選があったが、いずれも無投票。36年ぶりに選挙になった弥彦村長選がうらやましく見えた。