燕市国上、真言宗豊山派「国上寺」(山田光哲住職)では、2月3日に営む節分祈祷会(せつぶんんきとうえ)に向けて、ことしも真言密教のなかで最大の荒行「八千枚護摩修行」を行っており、山田住職は1週間前の28日からは真冬の寒さのなかで井戸水に体を沈めて読経などを行う厳しい水行(すいぎょう)を続けている。
八千枚護摩修行は釈迦(しゃか)の八千回に及ぶ修行を1昼夜に凝縮して行うもの。祈祷会の3週間前から前日まで1日3座の不動法と呼ぶ不動明王を本尊に除病や延命を祈る法を行う。
食事は精進だけとなり、葬儀があってもお斎(とき)は精進料理にしてもらう。1週間前からは五穀断ちとともに水行を行う。滝に打たれる水行は良く知られるが、同寺では滝がないので境内の井戸に入る水行。前日から当日にかけて断食し、当日は祈祷会が終わるまで話をしてはならない無言行を行う。心身ともに厳しい修行であることは容易に想像でき、それが秘法とされるゆえんだ。
なかでも困難なのが水行だ。28日から毎朝、山田住職は白い衣に着替え、まずは本堂で五体投地三礼(ごたいとうちさんらい)を行う。立った状態からひざまずき、頭を下げて拝み、再び立つ。これを百八回も繰り返す。体がへとへとになるが、これによって体を暖めることができ、逆にこれをせずに井戸水に入ると体が危険という。
それから境内に出て、本堂に向かって右手前にある雷井戸で水行を行う。この井戸は国上寺のある国上山にたびたび雷が落ちたため、行者が雷小僧を引っ張り落とし、あわせて周辺に水がなかったため、掘らせた井戸がこの雷井戸という伝説がある。
井戸は約2メートル四方の真四角に切ってあり、水深は約1メートル。井戸といういうと深く掘ってあるイメージだが、雷井戸は地下からわくというより、山を下る水が集まった池に近いもののようだ。
山田住職はその中に入るとひざまずき、雷井戸のかたわらに立つ高さ1メートルほどの不動明王の野仏に向かって手を合わせ、般若心経を3回、不動明王の真言を21回、大師宝号を3回、唱えて終わる。
その間、数分。水行を始めて3日目の30日は、寒波がぶり返して前日から雪景色に逆戻りした境内で、雪が降り続くなかの水行となった。前夜は三条で-5.4度まで気温が下がるこの冬いちばんの厳しい寒さ。弟子らが吹くほら貝が国上山にこだまし、山田住職は胸まで水中に沈めて一心不乱に手をあわせて祈った。
同寺では先代や先々代が数年に一度、八千枚護摩修行を行ってきた。節分は長岡市の千蔵院で行われる星まつりを手伝っていたが、どうせなら自坊でと10年ほど前から同寺で行うようになり、あわせて八千枚護摩修行も行っているが、水行は数年前から行っている。山田住職によると節分祈祷会で水行を行うのは自身だけ、全国でも10人くらいしかいないという。
山田住職は「僧職にとって救済が大義。葬式坊主とやゆされることもあるが、葬式や説法だけではどうにもならないことがある。まっとうに苦行に取り組んでいることも知ってもらえればと思う」と願っている。
当日は祈祷を受け付けるほか、節分のときだけ扱う鬼門除払(きもんよけばらい)のお札を1体2,000円で授与する。家の鬼門に掲げることで1年間の災いや厄を身代わりとなって受け止めるという。