三条市の中心市街地の空き家の活用と三条市へクリエーターを呼び込むための宿泊施設を目的に築81年になる町屋をリノベーションしたアトリエ付き滞在施設「Craftsmen's Inn Kaji」が1日、オープンした。
午前10時から関係者や住民30人ほどが集まってオープニングセレモニーを行った。施設を運営するのは、昨年秋にシェアスペース&ライブラリー「燕三条トライク」を開設したばかりの合同会社燕三条スタイル(小山雅由代表社員・三条市神明町)。
代表の小山さんは、三条には大昔に有名なクリエーターがいた、それが幕末に江戸から三条へ移り住んで数々の名作を残した彫物師、石川雲蝶(1814-83)。雲蝶は「おいしい酒といい道具がある町にやってきた」、「ここにやって来る人たちが現代の石川雲蝶として、ここに滞在して、ここに定住していく。そういう流れ、そういう思いを込めて“KAJI(鍛冶)”と命名した」と施設を紹介した。
市内のデザイン事務所「K・ART」の関川一郎さんは、ロゴマークのデザインを発表した。三条中の道具が集まり、世界中から職人が集まり、道具と職人が出会い、新しいモものが生まれて広がっていく。「求心力」と「拡散力」をあわせもち、デザイン的には“KAJI”の“K”、矢印、火花をイメージした。
ロゴについて小山さんは、海外への情報発信したいという思いで、施設名はあえて英語にしたと言い、文化や風習の違う人がやって来るが、「よそ者の人たちをぜひ温かく迎え入れる気持ちで対応していただけたら」と願った。
国定勇人市長は、「いかにも町人らしい、職人らしい人々のにおいが沸き立つような都市空間は三条の誇りだと思っているし、こんな町だからこそものづくり、金物のまちと言われるようなものが自然発生的に出てきたのかなと。それはこのまちをお見せすれば直ちに外から来られた方々にはしっかりと伝わることができるくらいの品格をもっていると思う」と三条ならではの中心市街地の魅力を話した。
この都市空間を未来に伝えるために三条市・一ノ木戸商店街に一昨年、開設した「みんくる」に次いで第2案となる歴史的建造物を借りて整備、活用する事業であり、「このまちにとってのシンボリックな存在として活躍をされることを心から期待したい」。市内外のクリエーターに一堂に集結してもらって滞在、創作してもらい、こだわり過ぎて利用が少なくならないよう、最大限に幅を広げて柔軟に活用し、いつも人があふれている空間となるよう願った。
その後、関係者らで鏡開きを行ってオープンするとともに施設を一般公開。午後は都市再生プロデューサー清水義次さんを講師にオープン記念講演会「リノベーションまちづくり」も開かれた。
同施設は、三条市元町にある文房具店だった旧外山林作商店をリノベーションし、生活空間とアトリエや交流の空間を設け、クリエイターなどが滞在できる施設にした。一部二階建ての木造で延べ床面積146平方メートルで、主に1階をアトリエ、2階を宿泊に利用する。
利用旅金は1泊で1人4,000円だが、1人増えるごとに1,000円追加となり、7人で10,000円と1人1泊1,500円足らず。さらに6泊を超える宿泊は割引きが適用され、宿泊人数が増え、宿泊期間が延びるほど割安になる。
正面の土間では燕市内に店舗を置いて大工道具を販売していた平出商店が同施設に店舗を移し、原則としてチェックイン、チェックアウトなどの管理も行う。
オープニングセレモニーには、建物の所有者の妻、新潟市に外山信子さん(66)も出席した。外山さんによると15年ぐらい前に文房具店をたたんでから空き家になっていたいという。それまで住んでいたのは夫の両親で、外山さんはここに住んだことはなく、空き家になるまで年に数回、訪れるていどだった。
家は風通しが良く、「昔の造りなので冬は寒かったが、不動産屋から空き家にしたままでもカビの心配はないと言われていた。ずっと空き家だったので、活用してもらえて良かった」と話した。
2011年に出版された「三条市中心市街地歴史的建造物調査報告書」の調査にあたり、昨年、国登録有形文化財に登録された三条市・嵐渓荘を調査した長岡造形大学の平山育男教授も見学に訪れた。
平山教授は、2階の部屋を土間の上の渡り廊下でつなぎ、わたり廊下の所に窓をつけて吹き抜けの茶の間に高窓を設けて光りが入るようにした建築様式は京都発。近くにある大通り沿いの菓子店、吉文字屋老舗も同じような造りと言う。
三条の町屋では中の上くらいのぜいたくな造りで、昭和10年以降はこうした建物がほとんど造られなくなり、2階から吹き抜けを見下ろす風景は「当時はステータスだったんじゃないかと思う」と話していた。