期間限定で新潟市西蒲区・岩室温泉がまるごと美術館に生まれ変わる「アートサイト岩室温泉2015」が7日開幕。武蔵野美術大学(甲田洋二学長・東京都小平市小川町)の卒業制作作品50点余りが岩室温泉の10軒の旅館を飾り、斜め上を行く温泉とアートという組み合わせが潜在的な感性を刺激している。15日まで。
初日7日は午前10時から新潟市岩室観光施設「いわむろや」でオープニングセレモニーを行った。あいさつで高島勝郎実行委員長は「岩室温泉のすべての起爆剤になっている」とアートサイト岩室温泉を評価し、学生に感謝した。
一方、武蔵美の甲田洋二学長も、成果主義が幅を利かし、美術や文化が軽んじられる傾向を憂い、キャンパス以外の「こういう空間のなかで、戸惑いつつもしっかりした先生の指導のもとに長年、継続しているのは、どれほどこれからの若い諸君の糧になっているかと感謝申し上げる」と話し、岩室温泉と武蔵美、さらに地域が一体となってそれぞれに利益をもたらしている。
展示以外にもさまざまなイベントが行われている。どうやって見学したらいいか不安な人には、毎日午前11時からと午後2時からの2回、行われているアートツアーがある。学生スタッフがいくつかの旅館を案内して、作品解説も行ってくれる。展示作業の工夫や作者の意図を話してくれるので、ひとりで旅館を回るよりも興味をもって鑑賞できる。
初日7日は午後からの回だけ行い、5人が参加した。ただのスイーツかと思ったらガラスでできていたり、建築物に投影されるイメージが強いプロジェクションマッピングをネクタイを締めてワイシャツを着せたマネキンの上半身に投影したり。壁面を埋め尽くすような大型の作品や一部屋を丸々使って空間構成したインスタレーションなど、思いがけない角度から感性を刺激され、今まで自分でも気付かなかった感性に作品から教えられることも。
一方で岩室温泉にある旅館に自由に出入りできるのも魅力。岩室温泉全体が美術館で、各旅館は作品展示室といったところで、温泉街がテーマーパークのようにも映る。旅館の歴史ある建物や高級感、趣なども味わうことができ、それが若手クリエーターの作品とあわせて見られるのがうれしい。
知り合いに勧められて長岡市から訪れた20歳代半ばの女性2人は「すごかった。美大生の作品にふれられる機会はめったにないので」とエネルギッシュな作品群に目を輝かせていた。
アートサイト岩室温泉は1年おきに開かれ、今回で7回目。毎年1月半ばに武蔵美で開かれる卒業制作展の出展作品のなかから、アートと社会の接点のマネジメントも学ぶ芸術文化学科の学生が旅館の展示にふさわしい作品をセレクトとし、岩室温泉の旅館に展示している。
学生スタッフは芸術文化学科の1年から3年まで18人。半年以上も前の昨年8月半ばからアートサイト岩室温泉に向けて準備を始め、ことしに入ってからは直前まで缶詰めのような状態で取り組んだだけに、会期の9日間、岩室に滞在するほぼ2週間は全体から見ればわずかの期間だ。
学生スタッフの代表は、美術館などの展示に携わる仕事に就きたいと考えている神奈川県横浜市出身の3年中島啓さん(21)。1年のときにも学生スタッフになった。「前回は先輩のサポートだったが、今回はやらなきゃならないことが増えた。1、2年の面倒もみなければならないが、ついこの間まで高校生だったので、フットワークが軽く、勢いでいけるのがいい」と後輩にも頼もしさを感じている。
芸術文化学科には作家と鑑賞する側のマネジメントを学ぶのも特色で、「学校では得られないものが学べる」。準備にかけた時間、労力があまりに大きかったこともあり、「まだ“始まった感”がないが、見に来てくれた人との交流を通じ、実感が増してくると思う」と話した。母方の祖父母が長岡市に住んでいて、1年のときに続いて見学に来てくれることになっており、照れくさそうだった。