新潟市西蒲区・岩室温泉の旅館に武蔵野美術大学の卒業制作作品を展示して7日から15日まで開かれている「アートサイト岩室温泉2015」のイベントとして8日、初めての「赤ちゃんアートツアー@いわむろ」が行われた。
芸術文化学科の杉浦幸子准教授を講師に5組の親子が参加。親子で温泉街を歩き、3軒の旅館を回って作品を鑑賞した。
もちろん子どもたちに「アートサイト岩室温泉」が開かれている認識はなく、親子で散歩の感覚。興味の向く先は作品だけにとどまらず、芽吹き始めた木や側溝のふたに施された鋳物のデザインにも引きつけられた。
作品では、ちょうど自分と同じくらいの背丈の木彫の子どもの像の前に立つと、ぴたりと足を止めてしばらく見入り、何を感じていた。ひとつの部屋全体を空間構成した作品では、部屋のなかをきょろきょろ見回し、天井から下がったオブジェに手を伸ばすなど、少なからずふだんと違う世界を感じとっているようだった。
「言葉を話せない赤ちゃんが美術にふれて20年後にどうなっているのかリサーチしたい」と杉浦准教授。「赤ちゃんの反応は動作や表情に表れる。指さし、目線、足を動かしたり、ばたばたさせたり」と、作品に接した子どもたちの反応を収集するために観察し、映像に記録した。
昨年夏に東京都現代美術館で開かれた、赤ちゃんからおとなまで一緒に楽しめる展覧会「ワンダフル ワールド」にかかわり、そのなかで1歳未満をターゲットに行った赤ちゃんツアーには15組の参加を募集したところ60組もの申し込みがあった。
赤ちゃん学で知られる中央大学文学部心理学研究室の山口真美教授も入り、原色に近く、境界がはっかりしたもの、目のようなものに赤ちゃんが興味をひかれるといったことを聞き、展覧会を企画した。
屋外を回る赤ちゃんツアーは今回初めて行った。作品に限らず外を歩きながら目にしたいろいろなものに興味を引かれる赤ちゃんのようすに杉浦准教授は「思った以上に反応していた」と注目した。
また、アートサイトに先だって岩室の小学校で行った黒板ジャックで、登校したら黒板にチョークで描かれていた絵を見た6年生が怖いものを見るようなようすだったことについて、小学校から中学校へ進むころになると「どうして怖いという気持ちが出てくるのか」。
赤ちゃんには日常で目にふれるものと美術の間にはっきりした境界はない。「年齢が上がるとうまい、へたを決めつけるからなのか、美術がどんどん遠くなっていく」とも話していた。