燕市産業史料館は6日から29日まで「スプーン展2015」を開いており、県内の24人の作家が“スプーン”をテーマに自由にイメージを膨らませて創作した成果を展示している。
作品を想像しやすい金工、ガラス、彫刻、ジュエリー、彫刻の作家から、どうやって“スプーン”を作品にしたんだろうと首をかしげたくなる写真、書道、染織といった作家も含まれる。
人間国宝の金工家玉川宣夫さん=燕市=は、この展示のために一対の長スプーンを制作した。得意とする木目金の技法を駆使し、用途は定かではないが,マドラーとしても長い30センチはあろうかというスプーンで高度な技術を惜しみなく披露している。
彫刻の沖野兼一さん=燕市=は、スプーンの柄の先に寺社の彫り物で見られるような日本的な意匠の彫刻を施「meguru」を出展。昨年の日展で特選の竹工芸の本間秀昭さん=佐渡市=は「削った竹(だけ)」としゃれて見せ、その名の通り削っただけのタケでスプーンを表現した。
同展初日にあわせて帰郷した燕市出身の写真家、渡辺一城さん(36)=東京都新宿区=は、ことし1月末に実家へ帰って母方の祖母とそのひ孫がスプーンを使って遊ぶようすを撮影した4枚を展示した。昨年、同史料館で凱旋初個展「豚」を開き、大きな評判を呼んだ。
養豚場に取材した写真集『人(ひと)』に収録した作品を展示したが、作品のなかには祖父母も登場。生と死、命の循環がひとつの大きなテーマになっている。祖父は昨夏、90歳で亡くなったが、今回の4枚の写真のなかには祖父の遺影も写っており、祖父の“死”、ひ孫の“生”が写し込まれている。
「物(スプーン)をとってもしようがないし、祖父もかわいがっていたひ孫を写し、命のつながりを表現した」と渡辺さんは制作意図を解説する。
七宝の枝村佐門さん(65)=三条市=は、同史料館にあるミニスプーンの制作体験ができる手動のプレス機を使った。体験ではアルミ板を抜いているが、枝村さんは銀の板で挑戦。アルミよりも圧倒的に硬いのに、見事にスプーンの形に抜くことができた。
皿の部分にプリカジュールを施した。プリカジュールはエナメル技法であることは七宝と同じだが、七宝は金属の下地があるのに対し、プリカジュールはステンドグラスのように完全に金属を抜いてエナメルを流し込むので、はるかに難しい。しかもミニスプーンの皿は小指のつめほどの大きさしかなく、その中に糸のこで枠を残して切り抜く作業は想像しただけで気が遠くなる。
さらに書道の泉田祐子さん=加茂市=は、究極のスプーンは手であるという理屈から、三条市の須藤凧屋から書道用に作ってもらった三條名物の六角凧に書というよりは象形文字のように手を表現。植物染めの星名康弘さん=新潟市西蒲区=は、「野菜と果実と金属の染め色スプーン」として、液体はすくえないかもしれないが皿のようにへこませた布を展示するなど自由奔放だ。
また、スプーンに寄せて編んだ言葉、「スプーンは愛だ。」(同史料館・亀井浩司館長)、「フォルムが躍動感にあふれるほど心が躍り、フォルムが官能的であるほど機能的である。」(同史料館・斉藤優介主任学芸員)、「皿部分のバランス良い深さと側面の仕上げと全体フォルムの美しさが見極めのポイントである。」(荒沢製作所株式会社・荒沢康夫代表取締役)、「皿の縁から首部分にかけて作りこむこだわりが、スプーン全体のフォルムの美しさに繋がる。」(小林工業株式会社・小林貞夫代表取締役社長)などをパネルにして展示している。
関連イベントとして木製スプーン制作会、プリカジュールミニスプーンペンダント制作会(上級者向け)、和釘制作体験会を開く。
木製スプーン制作会は15日午前10時からと午後2時からの2回開き、沖野兼一さんが講師で費用500円、午前、午後とも定員3人。
プリカジュールミニスプーンペンダント制作会は21、22の2日間通しで開く。2日間とも午前10時から午後4時まで開き、枝村佐門さんを講師に2日がかりで制作する。費用は1万5千円、定員5人。
和釘制作体験は29日、午前10時からと午後1時からの2回開く。鍛造の内山立哉さんが講師で、費用は500円、定員は午前、午後とも3人。3つの体験とも費用のほかに入場券も必要。問い合わせは同史料館(電話:0256-63-7666)へ。