三条市若手芸術家支援事業「阿部嘉美書展−ふるさととともに」が14日から18日までの5日間、三条東公民館で開かれている。三条市の書家、日展会友の阿部嘉美(本名・よしみ)さんの作品を一堂に集めて展示している。
初日14日は午前10時から開場式を行い、約20人が参列するなか、阿部さんと国定勇人市長、三条市文化芸術に関する懇親会の阿部凉子会長の3人でテープカットして開場した。
「三条市若手芸術家支援事業」は、文字通り三条市の若手芸術家を支援するのが目的で、昨年の書家の中村暢子(のぶこ)さんの書展を開いたのに続き、今回は第2弾。中村さんは阿部さんが三条高校で教育実習したときの生徒でもあり、開場式には中村さんも来場した。
阿部さんは1963年、三条市に生まれ育ち、大東文化大学文学部日本文学科を卒業して日本文理高校教諭となった。ギャラリートークでも話したが、大東文化大で周囲の学生が書道をやていたのに影響されて本格的に書道を始めた。
旧日展参事で日本芸術院賞を受けた梅原清山氏に師事。日展は92年に初入選して以来、ほぼ毎年、入選して07年には日展会友。中央の謙慎書道会に所属し、審査員資格のある常任理事。読売書法会理事、県展無鑑査でもある。
謙慎書道会はあまり個展を開くタイプの団体ではなく、個展を開こうと考えたことはなかった。今回が初めての個展で、もしかしたら最後かもしれない個展だ。
展示作品は40点。ギャラリートークで「いちばん気持ちに残ったのは校歌」と阿部さん。母校三条高校と第一中学校へ進む四日町小、条南小、南小の3小学校の校歌の一部を書いた。「もう歌わないであろう母校の校歌を残したいと思った」。
加えて「ふるさとに何かできるのではないかという思いを込めた」。それが今回の書展のタイトル「ふるさとともに」ともなった。
大学の書道部は部員が250人、多いときは400人にもなった。「人より倍やらないとうまくならないと思いながら勉強してきた」。謙虚な姿勢は当時から変わらない。
「隷書からかい書への過渡期」と表現する書体を得意とする。公募展出品作はそればかりだが、今回は行書や草書、漢字仮名交じりの調和体も披露。書道展は字が読めないと言われることから、あえて釈文の掲示は省略した。
行をそろえるために、筆を持つ前に1時間半ほどかけて針で穴を開けて行ぞろえのための目打ちを行っていることや、日展出品作の金紙に書いた作品は墨がのらないので秘密の技法があることなど、制作の裏話も。賛助出品として92歳になった師の梅原氏の「萬華」も展示。阿部さんは「先生は必ず正論をもって書いている」と紹介した。
仕事で揮毫(きごう)を求められることが多く、書を学ぶ国定市長は、「なぜ筆を運ぶだけでこういう風に…」としきりに首をかしげて作品に見入っていた。