7日から新潟市西蒲区・岩室温泉の旅館に武蔵野美術大学の卒業制作作品を展示して開かれた「アートサイト岩室温泉2015」が15日で閉幕した。最終日を前にした14日夜は岩室公民館で「TERAKOYA一日ムサビ生」として「岩室温泉アートミーティング」が武蔵美の学生と教授、地元の人たち合わせて約50人が参加してアートサイトの課題と今後を考え、意識を共有した。
参加したのは武蔵美と地域でほぼ半々。地域は岩室温泉の旅館や商店で働く人、まちあるきを行っているNPOのメンバー、武蔵美OBも加わった。当初は10人ていどの参加を想定していたが、予想以上に参加が多かったため、全体の自己紹介は省略し、8つのグループに分かれてワークショップ形式で進め、今回のアートサイトを振り返り、これからのアートサイトを考えた。
参加者でいっぱいになった畳の部屋で、まさにひざを突き合わせて話し込んだ。地元の人は「学生さんがまちを歩いてくれると、それだけで希望になる」、「岩室は静かで積極性がない」と言えば、初めてアートサイトに参加した1年生は「もっと人が来ると思っていた」、「地元の人との交流が少ない」と、ざっくばらんに思っていることをそのまま伝えた。
広報の不足を訴える声も目立った。新潟市と合併する前の旧岩室村は、岩室村と和納村が合併して生まれたが、和納地区の人ですらアートサイトが開かれていることを知らない人が多いと言う。
さらに今後のアートサイトについて話し合い、グループごとに発表。アートサイトのなかでまちあるきができないか、地元の人を武蔵美のキャンパスに呼んではどうか、武蔵美と地元のかかわりの改善、旅館組合とのイメージのギャップ、学生と地元の人が互いに申し訳ないという気持ちが強いので互いにもっと甘え合って支え合う祭をするなど、今後、アートサイトを進めるうえで有益で建設的な意見やアイデアが次々と出た。
また、3年に一度開かれる「水と土の芸術祭」の関係者などから、開催されない年の活動などの課題が示された。これにひとつの回答を出したのが、「ほてる大橋 館の湯」の石添嗣好史社長。石添社長は、ことしは「武蔵野美術大学 岩室分校」をコンセプトだったことから、自身がすぐにできることとして、ことしの夏休みに武蔵美生からホテルでアルバイトしてもらうことを提案。岩室で働きながら住んで感じたものを創作で表現してもらう。
ほかにも土地を買うか空き家を活用するなどして、いつでも武蔵美生が寝泊まりして暮らしながら創作活動ができる「ムサビハウス」を建てようというわくわくするようなアイデアもあった。「働く」、「暮らす」、「作る」という3つのキーワードも見つかった。
地元とのコミュニケーション不足を指定する人も多く、アートサイトを担当する楫義明教授は、「突然、絵を見せて帰って行くではなく、地元の人たちと学生の力、いろんな知恵を一緒にして、何かここで別の物をつくりあげるというようなことを新たにしないといけないと思うし、そこで積み上げることで初めて岩室オリジナルのどこにも真似ができない、岩室にしかできないものが新たに生まれてくる」と期待した。
新潟市岩室観光施設「いわむろや」の小倉壮平館長は、「学生スタッフといかに長く付き合えるかというのが、アートサイトをやる岩室側の最大のメリットになるような気がするので、もう一度、次回は見直していきたい」と話した。
「岩室温泉アートミーティング」は今回、初めて行った。杉浦幸子准教授が企画。「TERAKOYA一日ムサビ生」として毎回恒例の楫教授による講座以外に何か新しいことができないかと考え、漠然とアートミーティングを開くことにした。
打ち合わせを進めるなかで岩室と武蔵美の問題が重なり合う部分が多いと気づき、とりあえず地元の人たちと一緒に話してみようとなった。今まで地元旅館組合と話したことはあったが、今回は準備段階の下見のときに参加してほしい人に声をかけた。
アートミーティングでさまざまな課題を双方が共有でき、「今後のキックオフになった」と杉浦准教授。今回はアートサイトにあわせて岩室の2つの小学校で児童に内緒で生徒が黒板にチョークで絵画を描く“黒板ジャック”を行った。杉浦准教授は「黒板ジャックもそうだったが、もっと地元に入って未来につながるプロジェクトにしていきたい」と話している。