三条市下田地区では、例年より早く5月の声とともにイチョウの花が咲き、下田地区でイチョウを栽培し、ギンナンを収穫する自営業渡辺隆一さん(72)=三条市長野=は、人工授粉をするタイミングを逃した。
渡辺さんは近くの開発畑を借り、それまでタバコやサツマイモを栽培していた畑でイチョウを植えるようになって13年目。大粒のギンナンができる「藤九郎」と「喜平」の2品種を栽培する。
イチョウの木は雄と雌が別で、雄花の花粉が雌花について受精する。もちろん、何も放っておいても自然に受精が行われるが、人工授粉によって、より確実にたくさんのギンナンを収穫できる。
渡辺さんの畑では授粉作業のタイミングは5月上旬。雄花から採取した黄色い花粉を水に溶かして2時間以内に高圧洗浄機を使って雌花に散布する。
イチョウの花を見たことない人がほとんどだろう。雌花はカマキリの頭のような形で、大きさは2ミリほどしかなく、色も葉と同じ緑色なので、探そうとしなければ花の存在に気付くことはまずないし、見つけてもそれが花と気付かないかもしれない。雄花はブドウのような房状だが、それとて長さは数ミリで緑色。花とは思えない姿だ。
2日、畑に出た渡辺さんは「雄の花が終わった」と悔やんだ。「1日前まで、きのう見たらほぼ全部、終わった。ひと晩でやられた。早く花粉を取ってもだめで、1時間単位で花のようすを見に来ないと」と言い、それほど花粉を採取する最良のタイミングはわずかな時間しかなく、難しい。
ことしは雪消えは遅かったが、3月半ばから気温が上がって春の花の開花が早まり、イチョウも同様。それも雄花の花のタイミングを見極める勘を狂わせたようだ。人工授粉に成功していれば何百キログラムも収穫できる。「あとは自然の力に任せるしかない」と収穫を自然の力にゆだねている。