燕市と東京ヤクルトスワローズは2010年から連携を進めており、スワローズのマスコットキャラクター、つば九郎が来燕するたびにその案内役を務めていた担当者が、4月から燕市で初めての地域おこし協力隊員に任命され、自ら家族で燕市へ移住する実践者となって移住定住総合窓口を担当しいる。
この地域おこし協力隊員は、企画財政部地域振興課交流推進係の主任に就いた伊藤正嗣さん(38)。日々の業務は、首都圏の大学にパンフレットを置いてもらったり、燕市への移住をPRする情報を収集したり。25日は吉田天満宮大祭の露店を回って写真を撮り、市民から話を聞いた。
スーツにネクタイで繰り出したが、祭りムードのなかでは違和感たっぷり。夏のような暑さにも見舞われ、上着を脱ぎ、ネクタイもはずして歩いた。「妻が洗濯物がなかなか乾かないと言っている」と汗を光らせ、「露店が長くて驚いた」と話した。
伊藤さんは神奈川県横浜市出身で、妻と小学校1年生になった双子の男の子の4人家族。漫画「家裁の人」にあこがれ、大学を卒業すると家庭裁判所調査官を目指した。採用されるまでの間、のちに就職する東京の警備会社でアルバイトをしたが夢はかなわず、7年間のアルバイトの末に宮城県仙台市で楽天イーグルスの球団の契約社員として1年余り働いた。
契約が切れるころ、以前、アルバイトした警備会社から声をかけられて就職。08年からその警備会社のイベント担当になり、11年に燕市・スワローズライスファームで行われた田植えイベントで、初めてつば九郎とともに燕市を訪れた。その後も燕市での田植えや稲刈りのイベントのたびに、つば九郎と来燕してつば九郎の前を歩いており、伊藤さんの顔に見覚えのあるつば九郎ファンも多いだろう。
昨年12月、東京で開かれた新潟県と北関東の5県合同の移住説明会に出席した。説明会に燕市も参加していたが、それほど気にもとめず、会場で名簿に名前を書いたくらいだった。その後、燕市と接触するなかで地域おこし協力隊を募集していることを知って志願し、移住、転職を決意した。3月23日に神奈川県川崎市から燕市分水地区の一ノ山のアパートに家族で引っ越し、4月1日から燕市に勤務している。
双子の息子は今春、小学校に入学。「今が転職のタイミングかなと思った」と伊藤さんは言い、「今までの転職のタイミングも一期一会だった。今がやれというとき、ベストタイミングなんだろう」と考え、運命を信じる。
愛犬を連れての引っ越しなので、イヌを飼える条件を最優先し、アパートは分水地区になった。首都圏と比べれば、さまざまなサービスは比べるべくもないが、近くにスーパーもあり、日常の買い物に不便はない。車は1台だけで、主に妻が使っているため、週に3回はバスで出勤し、電車で帰る。歩く距離はかなりあるが、東京での移動と比べればそれほどではない。
仕事は今まであまり経験のないデスクワークが中心だが、2カ月近く働いて「ようやく慣れてきた」。何より「プライベートな時間、子どもと話せる時間が格段に増えた」と喜ぶ。前の職場ではなかなか休みがとれず、子どもとは朝か電話で話すくらいだったが、「今は明るいうちに帰れる」。
子どもたちが新しい環境になじめるかどうかも大きな心配事だったが、「おとなより子どもの方が順応姓が高い。以前はマンション住まいで近くに公園がなかったので、今の方が全然、外で遊ぶ時間が長くなった」と、いい方向への子どもの変化を実感する。
近所に同じような世代の家族が多く、「妻もさっそくママ友ができ、いい感じでご近所とも付き合いができていると思う」と順調なスタートを切っている。
地域おこし協力隊の委嘱は3年以下と決して長くないが、その先の進路はまだ白紙で、目の前の仕事に集中するのが第一。燕市については「ほどよく古いまちと新しいまちが同居し、暮らしやすい所。地方への移住を考えている人にとってはハードルは高くなく、移住先としては考えてみては」と先輩移住者として燕市への移住を呼びかけている。