元文3年(1738)開湯の田上町・湯田上温泉の旧温泉街にアート作品やコレクションを展示して新たな光りを当てる「湯のまち巡り〜軒先アートギャラリー」が6月20日から7月20日までの1カ月間、初めて開かれる。住民や団体を巻き込んだ田上町では初めてといえる形でのイベントで、田上町の協働やまちづくりに新たな指針をもたらすことも期待される。
地元の護摩堂山で開かれる「あじさいまつり」の一環で開かれ、7月4、5日がメーン展示。旧温泉街は今の温泉街より山手にあった。そこに残る旅館だった建物や寺、空き家、営業している旅館や商店など約30カ所が展示室になる。
展示物は地元作家の竹工芸の小菅孔月さん、陶芸の石田一平さん、書家の青野美子さんの作品、町民のコレクションは、ご利益グッズ、ほうろう看板、矢沢永吉グッズなど幅広く、旧温泉街の歴史を感じながらまちあるきし、鑑賞してもらう。ほかにも旧源泉の足湯、音楽ミニライブ、茶会、古本市、ワークショップも用意する。
昭和35年(1960)ころの湯田上温泉は20数件もの旅籠(はたご)があり、芸妓(げいこ)は40人を数えるにぎやかな温泉街だった。しかし山道は大型バスが通れないこともあり、山の下へ移転する旅館が相次ぎ、旧温泉街の灯は消えた。
これまで旧温泉街が顧みられることはまったくなかったが昨年9月、NPO法人まちづくり学校が湯田上温泉でまちあるき「ブラニイガタ@湯田上」を行い、見学先のなかでもとくに旧温泉街が好評だった。
このまちあるきにかかわったのが、今回のイベントの実行委員長で、NPO法人まちづくり学校理事、田上町議の自営業池井豊さん(52)=田上町羽生田=。池井さんの発案でプロジェクトがスタートした。あじさいまつりは、巨大なそうめん流しが恒例の目玉だったが、保健所の指導で中止せざるを得なくなり、その代替案という裏事情もある。
ひな形にしたのは、移住したアーティストの間で2007年から自宅を使った展示が自然発生的に始まった新潟市角田地区の「浜メグリ」。それに大地の芸術祭や村上町屋の人形さま巡りも参考にした。ことし2月に実行委員会を組織し、田上町観光協会(野沢幸司会長)とともに主催する。
展示場所を提供する住民をはじめ、田上町や旅館組合、大学、自治会など、大勢を巻き込んだプロジェクト。これまで田上町でのイベントは、一部の限られた団体の主催ばかりで、今回のように地域のさまざまな人や団体が取り組む大きなイベントは初めてと言っていい。
ただ、初めての試みなのに関係者が想定した以上に規模が大きくなり、予算も足りない。旧温泉街周辺には駐車場がないため、臨時駐車場やシャトルバスが必要になるが、その警備や運行に充てる予算がない。
27日開かれた実行委員会には20人近くが出席し、開幕まで残り3週間ちょっととなったところで、まだ決まっていないことが多く、課題は山積。これから全体での実行委員会を開く余裕はあまりないので、部門ごとに集まって内容を詰めていく。
池井さんは「今回はお試しでやってみる。田上らしさが出せたらいい」と肩の力は抜けている。まちあるきによって「旧温泉街のコンテンツの魅力はわかった。その魅力を味わってもらうために作品を展示するアートポイントを設け、旧温泉街とアートの相乗効果が生まれたらいい」と期待する。
「今回の最大の目標は、実行委員が楽しかった、またやろうと思ってくれること。イベントを続けてさえいれば、おのずと客は増えてくる」と長期的な視野でとらえており、田上町で巻き込み型のイベントが定着するかどうかの試金石ともなる。イベントに関する問い合わせは田上町観光協会(電話:0256-57-6225)へ。