6月20日から7月20日まで旧湯田上温泉街で初めて開かれている「湯のまち巡り〜軒先アートギャラリー」。4、5の2日間はメーン展示として25会場で作品展示やイベントが行われており、地元の人たちにも忘れられていた旧温泉街が来場者を集め、形を変えて息を吹き返している。
展示会場は旅館だった建物や寺、空き家、営業している旅館や商店など。これまでの展示は営業中の旅館が中心だったが、週末の4、5日はすべての会場で大半が午前10時から午後5時まで公開される。
4日、最も人気だったのは華蔵院(けぞういん)。切れめなく客が訪れた。湯田上温泉旅館共同組合女将会が裏の茶室で茶会を開いた。タケやぶを横に見ながら石段を登った先にあり、“苔寺(こけでら)”とも呼ばれたほど周辺には青々としたコケがじゅうたんのように広がる。小さな茶室からのぞむ庭には、朝に咲くとその夜には落花する一日花の白いナツツバキが散らばり、日常とは別世界のような空間が静寂の空間が広がる。
尼寺だったが、生きていれば100歳近くになる5代目の尼僧、岡田旨外(しがい)を最後に15年ほど前から空き寺になっている。主はなくとも相沢ヤイさん(80)が毎日のように庭の管理を行ってきた。建物は床が抜けそうなところもあるが、概観は尼僧が健在だったころの美しさを保っている。
相沢さんは夫とふたりで数日かけて建物の中を掃除して使えるようにした。相沢さんは「華蔵院はずっと日の目を見なかったから良かった。庵主さまが喜んでいなさるって言われた」と顔をほころばせた。
相沢さんの知り合いで元町役場勤務の地元の川村ヒロさん(91)は「50年も前になりますか。昔は花を習いに来ました。庵主さまは、いい方でいらした。上手に教えてくれました」と懐かしんだ。往時は毎年10月10日に華蔵院で茶会が開かれ、4席も設けられて何百人もの客を集めたと言う。
茶会は湯田上温泉旅館共同組合女将会に入る湯田上温泉の4人の旅館の女将が和服で点前を披露した。「ホテル小柳」の野澤奈央さん(40)は、幼稚園のころから華蔵院で茶を習ったことを今でもはっきり覚えている。「当時はけいこに行きたくなくて、お菓子が目的なだけ」と笑い、「30年近くぶりに先生の弟子にけいこをつけてもらって点と点をつないでもらった」。
今回のイベントで華蔵院が再び利用されたことについては「まちの活性化にもつながると思う。また、こういう機会をもちたい」と前向きで、湯田上温泉の秋の温泉まつりでも再び茶会を開いて客を呼び込みたい考えだ。
茶会の客は、だれもが美しい庭に驚いた。加茂市から夫と訪れた60歳代の女性は「平家物語」の冒頭の「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす」を思い出していた。沙羅双樹(シャラソウジュ)は釈迦(しゃか)が入滅するときに臥床の四辺にあったと伝わることから仏教の聖樹とされ、日本ではその代用品としてナツツバキが植えられることが多いからだ。
「雨上がりの空気もしっとりとしていてとてもいい。今まで使われていなかったのは、もったいない。秋はきっとモミジがの紅葉がきれいなんでしょうね」と秋の野趣に包まれた庭での茶会にイメージを膨らませていた。
メーン会場の田上コミュニティセンターでは、飲食の販売、加茂市の新潟経営大と新潟中央短大の学生がスタッフとなって子どもたちなどと七夕アート作り、東京・高円寺から訪れたミュージシャンによるライブなどが行われている。もうひとつのイベント会場の旧共同浴場会場では飲食の販売などが行われている。
各会場には地元作家の作品や趣味のコレクションが展示され、昭和50年ころから新しい温泉街への移転が進んで時間が止まっていたような旧温泉街は、何十年かぶりに息を吹き返している。