この春、専門学校を卒業した三条市の長野真弥さん(20)は、三条市役所に就職した。目指したのは公務員ではなく、あくまでも三条市職員。3年前に国定勇人市長を前に堂々と三条市職員になりたいと話した女子高生がその夢を実現させた。
新潟市西区に生まれて間もなく父の実家のある三条市に家族で移住。地元の小、中学校から県立三条商業高校へ進んだ。吹奏楽部に入部し、2年生の秋から部長に就いた。三条商高は10年に始まった三条市の青空市「三条マルシェ」と縁が深い。三条商高の商業クラブは毎回、三条マルシェに「いかぱん屋」で出店し、イカをかたどったパンを販売している。
13年3月、三条市・一ノ木戸商店街にオープンしたまちのみんなの交流拠点「みんくる」オープンイベントとして三条市厚生福祉会館で「まんなか熱血トークバトル」が開かれた。昨年度まで三条商高に勤務し、商業クラブの顧問だった新井勝博教諭に声をかけてもらい、市内の若者の代表のひとりとして出演した。
一緒に出演した若者はマルシェ部員だったり、三条マルシェに実行委員などでかかわったりしていた。その前向きな姿に触発された。「わたしもやってみたい、高校生として三条マルシェにかかわりたいと思った」。
トークバトルで長野さんは、三条マルシェで吹奏楽部ともコラボしたいと発言した。それは2カ月後の5月の三条マルシェで早くも実現し、吹奏楽部の生演奏にあわせて書道部が書道パフォーマンスを行った。
マルシェ部に参加し、同じころに発足した三条市の若者でつくる団体「まんなかフェス」にも加わった。まんなかフェスではクリスマスイベントをはじめ、商店街のハロウィーンイベントを手伝ったり、地元下田産のサツマイモを使った洋菓子を開発したりと、さまざまな活動に取り組んだ。地域とのかかわり方が一変した。
「それまでバイトやったこともなかったので、いろんな人とかかわるのが新鮮で楽しかった」。三条を盛り上げたいと思うようになり、地元のニュースにも興味をもつようになり、いつしか三条市役所で働きたいと思うようになった。その思いをまんなかフェスのメンバーとして国定勇人市長に直接、伝えている。
台風接近で中止になった13年9月の三条マルシェの関連イベント、嵐南小学校の校歌をつくった川嶋あいさんを迎えたトークショーで、川嶋あいさん、国定市長とともに長野さんもステージに。長野さんは2人に若いころに何になりたいかと質問すると、逆に国定市長に同じ質問を聞き返された。三条市職員になりたいと即答した。会場から笑い声が起きた。国定市長からは「待ってます」と励ましの言葉をもらったことを覚えている。
その後も国定市長とは三条マルシェで会ったり、話したりした。高校を卒業すると新潟市・大原簿記公務員専門学校へ進んだ。三条市職員になりたいという夢は揺るがない。晴れて三条市の採用試験に合格。夢はかなった。
国定市長は、高校生でありながらまちづくりに頑張る長野さんを見てきた。「よくぞ自分の力で最終面接までたどり着けたっていう努力には感服した」と拍手を送る。「初心を忘れずにいてほしいと思うし、思いを形にしたら次が大変だと思う。今度はせっかく息の長い仕事に就けたのだから、あまり焦らずに情熱をもって今の仕事に正面切って立ち向かってってほしい」と願う。
三条マルシェがきっかけで三条市職員になったのは、長野さんで3、4人目になると言う。「三条マルシェそのものが引き続きまちに残って頑張るんだ、ありがたいことにそのなかでも市役所を目指して受験して頑張る人が増えているのはすごくうれしい」と国定市長。「三条マルシェが彼ら、彼女たちの原動力の一助になったのはすごく誇らしい。これがまちづくりそのもの」と喜ぶ。
長野さんは4月に入ってから研修を受け、12日から現場に入っている。まだ学生気分が抜け切らないと言う長野さんは、「覚えることもいっぱいあって、すごく大変そう」が率直な感想。「先輩の皆さんが忙しくしているのに、まだ何もできなくて」と不安もある。
三条マルシェではさまざまな人と交流し、「その経験を窓口業務に生かしたい」。「先輩に市民窓口課は市役所の顔だと言われ、顔を汚さないように1日、1日、頑張ろうと思う」と自分に言い聞かせるように話す。