三条市名誉市民で日展審査員も務めた紙塑人形作家、鶴巻三郎さん(1908-2005)とその子と孫の初めて3代の作品を一堂に集めた企画展「美の系譜 −斎藤道男・鶴巻純子の家族 三代5人展−」が6月5日まで南魚沼市浦佐、池田記念美術館で開かれている。
展示作品は鶴巻三郎さんの8点。その娘で彫刻家、新潟県美術家連盟理事の鶴巻純子さん(70)の14点。その夫で彫刻家、日本彫刻会正会員で県展無鑑査の医師、斎藤道男さん(68)の13点。
ふたりの子で神奈川横浜市に住む日本画家、神奈川自主県展横浜市長賞を受けている日本画家の鶴巻謙郎さん(42)の8点。その妹で銅版画家、県展無鑑査の鶴巻貴子さん(37)の19点の合わせて62点を展示する。
1階の展示室に斎藤道男さんと鶴巻謙郎さん、2階の展示室にほかの3人の作品と2室に分けて展示。それ以外にも廊下に鶴巻謙郎さんの5点、鶴巻貴子さん8点の小品も展示している。
鶴巻三郎さんの作品は最後の作品となった「対話」、鶴巻純子さんの結婚をテーマに制作した1972年に制作した「対話」がある。いずれも抽象的な作品だ。
ほかは初期の昔話や昔の日本の子どものようすを描写した作品を所有者から借りて展示する。浴衣を着た姉が弟の手を引き、弟が郷土玩具の鯛車(たいぐるま)を引く作品「鯛車」を何点か制作しているが、展示している作品は姉がちょうちんを持っているのが珍しい。子どもたちに向けられた温かい視線が伝わってくる。
鶴巻純子さんの作品は、92年に当時84歳だった鶴巻三郎さんをモデルに制作した胸像、成長してゆく少女時代の鶴巻貴子さんをモデルに85年から90年までに制作した4点などを展示する。鶴巻三郎さんから創作にあたって、いかに自然であるか、無理に表現しない、奇をてらったり誇張したりしないと、自然体で作品に向かうよう言われたという。
斎藤道男さんは02年と05年の2度の県展賞受賞作品や県展奨励賞受賞作品をはじめ、日展入選作や日本彫刻会主催日彫展の出品作品を展示。作品を発表する機会は多いが、医師なので自身の作品をこれだけ集めて展示するのは初めてで、自身にとっても貴重な機会になっている。
鶴巻謙郎さんの作品「Lumière-Paris」は、六曲一双屏風の形式で、一般的な屏風を上回る220×960センチにもなる大作だ。鶴巻謙郎さんの多くの作品と同様にパリに取材した。180×400センチの大作「YAMATE-printemps」は、今回のために制作した新作。作品は洋画に見られがちで、光をテーマに軽やかな色彩感覚で独自の世界観を見せてくれている。
鶴巻貴子さんは、ことし3月に三条市若手芸術家支援事業として三条市で鶴巻貴子銅版画展が開かれたばかり。そこで展示した作品を中心に、今回の会場にあわせて県展賞をはじめ公募展受賞作品などを選んだ。同じ部屋に展示した鶴巻純子さんの立体作品とのコラボレーションにもなり、両者の調和を考えて展示した。
斎藤道男さんは南魚沼市五日町、五日町病院の院長。同病院の副院長として勤務を始めてすでに34年にもなる。精神科の医師で作業療法として彫刻も取り入れている。
南魚沼市で十数年前に六日町を中心とした5、6人の彫刻仲間とグループ「沖游会」つくった。グループ展などを開くなかで、2年ほど前から会の仲間たちから、地元で斎藤道男さんの作品展を開いてほしいという声が上がった。その企画が膨らんで5人展となった。
開幕まで残り2カ月と迫ったことし2月29日、斎藤道男さんは脳梗塞(こうそく)で倒れて10日間、入院した。幸い後遺症はほとんどなかったものの、今回の展覧会は見送ろうとも考えたが、仲間たちが準備や展示作業を手伝ってくれて実現した。
5人展は「最初で最後でしょう」と斎藤道男さんは言い、「きっとお父さんも喜んでくれているはず」と仲間たちに感謝する。鶴巻三郎さんは、鶴巻謙郎さんが生まれたときもそれを記念した作品「珠玉」を制作した。鶴巻純子さんも「父は家族をテーマにして人間を見る目が温かかった。こんな形の展示になったことを喜んでくれていると思う」と言う。
初日29日はギャラリートークが開かれ、約50人が参加した。鶴巻純子さんが語る鶴巻三郎さんについての話を聞いた鶴巻貴子さんは、「本当にいい機会をもらった。(鶴巻三郎さんは)人間愛、家族愛にあふれた、人間が好きな人だったんだなと思った。母の話を聞いていてなぜか涙がでてきて、それくらいうれしかった」と話した。ギャラリートークはもう1回、8日午後2時から行われる。
午前9時から午後5時まで開館、入館は午後4時30分まで、最終日は午後3時まで。毎週水曜が休館日だが、ゴールデンウイーク中は休まない。入館料は一般500円、高校生以下無料。問い合わせは同美術館(電話:025-780-4080)へ。