日本の発酵、醸造文化を広く紹介し、伝えていこうと越後味噌醸造株式会社(木龍康一社長・燕市吉田中町)は、しょうゆのもろみの発酵をうながす「醤油の櫂(かい)つき体験イベント」を始めた。
越後味噌醸造では、かつて酒やしょうゆも作っていた。今はしょうゆの販売の許可を受けておらず、製造もしていなかった。昨年9月に経営が変わり、ことし3月から毎月の味噌蔵見学と味噌仕込み体験イベントを始めた。同様の取り組みとして今度はしょうゆでも体験イベントをと、昔に使っていたしょうゆの木桶(きおけ)を引っ張り出し、もろみを外部から買って体験イベント用のしょうゆの醸造に取りかかった。
「醤油の櫂つき体験イベント」は、醸造して粕(かす)をこす前のたるに入れたしょうゆの“もろみ”を“櫂”と呼ばれる棒でかき混ぜ、酸素を入れて発酵をうながし、菌に呼吸をさせる作業。月2回ほど行う必要があることから、櫂つきの作業を行うのあわせて体験イベントも行うことにした。
初めて行った7日は20人近くが参加。2回目の28日は6回に分けて合わせて約20人の参加申し込みがあった。28日は午前10時からの1回目に3組、おとな4人、子ども2人の6人が参加した。
所用時間は約40分。木龍社長を案内役に工場見学で創業245年にもなる越後味噌醸造の歴史をまさに五感を使って感じ、木製の櫂つきに挑戦した。先にもろみを味見し、参加者は「おいしい!」、「おにぎりがほしい!」と初めて味わうもろみのおいしさに感激した。
木龍社長は「中をぐちゃぐちゃやるだけでなく、下から上にぼこっと」と櫂つきを実演して見せ、続いて参加者も櫂つきの感覚を身をもって体験。越後味噌醸造では木桶で味噌を作っているが、全国の味噌の木桶で作っているのは1%ほどしかなく、昔ながら木桶を使ったみその魅力も学んだ。
参加者のひとり、燕市吉田神田町に住む五十嵐ヱミ子さん(74)は、兄の弥彦村麓、富田明雄さん(84)が16、7歳のころから越後味噌醸造の木桶職人として働き、のちに営業職を務めた。父が大工だったこともあり、富田さんは木桶職人を目指した。木を扱う腕を生かして版画を制作し、県展で入選したことも。越後味噌醸造の直売所には富田さんが木桶をモチーフに制作した作品も展示している。
五十嵐さんはずっと越後味噌醸造のみそを食べている。富田さんから取次店のようになってもらって買ったり、スーパーで越後味噌醸造の製品は置いていないのかと聞き、置いてもらえるようになったこともあったと言う。
埼玉県に嫁いだ長女に頼まれて越後味噌醸造のみそを送ることがある。その長女からネットで今回の体験イベントがあるという情報を聞かされて参加し、初めて越後味噌醸造に入った。伝統を大切にしている越後味噌醸造の取り組みに「本当にすばらしいこと」と言い、「木桶は百年たっても生きて働いてくれるんですね」と先人の知恵や技に感心し、味噌蔵見学と味噌仕込み体験イベントにも参加したいと話していた。
6月の「醤油の櫂つき体験イベント」は、7日と24日。参加費は無料なうえ、当日は直売店での買い物が10%引きになる。申し込みや問い合わせは越後味噌醸造(電話:0256-93-2002、メール:info@echigomiso.co.jp)へ。