4月にスタートしたばかりの演劇教室「65歳以上の劇団」は28日、活動の拠点にしている三条市のまちなか交流広場「ステージえんがわ」で旗揚げ公演を行い、わずか2カ月足らずの練習にもかかわらず83歳を最高齢に8人のキャストは約40人の客を前に見事な演技を披露して大きな拍手を浴びた。
前座の三条市のきよ里さんよる三線と歌に続いて芝居が幕を開けた。演目は「同窓会」。脚本は昨年、オール三条ロケで制作された映画「ライブハウス レクイエム」の監督、松本卓也さんの書きおろしだ。
久しぶりの同窓会。次々と旧友たちが集まってくるが、その正体は浦島太郎や一寸法師、桃太郎、こぶとりじいさんと昔話の登場人物。話題のテレビCMのような設定のどたばたコメディーだ。
演劇は出だしからスムーズで、大きなミスもなく練習と同等かそれ以上の出来栄え。芝居が進むうちにどんどん周囲も暗くなって客も自然と演劇への集中度が高まり、ねらい通りに何度も客席から笑い声が上がって会場に一体感が生まれた。
15分の舞台が無事に幕を閉じ、キャストがカーテンコールにこたえると会場は大きな拍手。会場の高揚感が収まらず、みんなで唱歌「故郷」を合唱して締めくくった。
この演劇教室は、東京都出身で劇団「トマト座」で主役を張る女優として全国を巡演、結婚して三条市へ移住した岡田美香さん(34)が立ち上げた。月曜と木曜の週2回、「ステージえんがわ」でレッスンを行っている。
キャスト8人のうち65歳以上は3人、60歳以上なら4人。最高齢の三条市に住む大井恵美子さん(83)は、「終わってからもしばらくどきどきが止まらなかった。こんなに気持ちは何十年ぶりかしら」と予想以上の興奮や充実感を味わった。
「いいとか悪いとかでなく、途中で立ち往生しなくて良かった」と胸をなでおろしつつ、「やれって言われればまたやります」と笑い、「緊張もあるけど楽しい。この楽しさはやった人でないとわからない」と話した。
五泉市に住む岡英彦さん(51)は「演劇活動は若い層が多く、65歳以上がどれくらいできるのか興味津々だった」と見学に訪れた。岡さんは20年ほど演劇にかかわっており、新潟市・東区市民劇団「座・未来」の団員で、これから五泉市で市民劇団の取り組みをスタートさせる。
「わたしも50代になり、限界を感じることはあるが、わたしより上の世代の人からこれだけ頑張っている姿を見せられたら自分も頑張らなければと思った」と励まされた。「高齢者の演劇の取り組みは県内でもほかに例を見ない。これだけせりふを覚えただけでもすごい。これからも続けてほしい」と岡さんは期待した。
演出の岡田さんは「みんなすごく生き生きとやってくれて大満足です」。カーテンコールに呼ばれた岡田さんは懸命に涙をこらえながらあいさつした。客が20人も入ればと思っていたが、その2倍の来場に驚いた。たくさんのカンパも寄せられ、「カンパの気持ちがありがたい」と不安を抱きながら続けてきた取り組みに大きな手応えを感じた。
すでに8月は新潟市秋葉区で事例発表的な形での出張公演、9月は防犯の啓発に関する公演も決まっている。まさに「65歳以上の劇団」の活動は始まったばかりだ。