燕市産業史料館では3日から7月3日まで同史料館でアメリカ木目金(もくめがね)作家展を開き、日本伝統の金属加工技術「木目金」を施した米国の金工作家28人の作品を展示している。木目金を得意とする人間国宝の金工作家、玉川宣夫さん(74)を輩出、国内唯一の鎚起(ついき)銅器産地である燕市でも、米国で木目金が“MOKUME-GANE”と呼ばれて金工作家の間で広まっていることが驚きをもって迎えられ、17日は米国から7人の出展作家が燕市産業史料館を訪問することが決まった。
米国の28人の作家の作品80点余りを展示。加えて地元から玉川さんなど4人の作家の木目金を施した作品も展示している。木目金は色の違う金属を何十層と重ねて鍛接してから彫りを加えるなどして木目のような模様に仕上げる技術。400年ほど前から刀の鍔(つば)や小柄(こづか)を装飾するために始まった。
廃刀令で刀が消えるとともに木目金の技術も廃れた。その後、復活はしたものの、国内でも木目金を手掛ける作家は玉川さんをはじめごく限られている。日本の木目金を知る人でも、海を渡って木目金の技術が広まっていることを知る人はまれで、今回、28人もの米国の作家が出展していることは、地元にとっても驚きだ。
地元で木目金作品といえば、花瓶ややかんを想像する人が多いが、米国の作家の発想は自由だ。指輪やアクセサリーやネックレスといった装飾品はもちろん、ソファやトンボ、クラゲなどをかたどったオブジェ、錠前やコンパスの一部の装飾として木目金施した作品もある。
米国の作品の多くは金や銀で作られる。日本のような赤銅、四分一、緑青といったさまざまな発色をする金属の入手が難しいため、日本の木目金よりシックで地味。日本の木目金のきらびやかでありながら重厚なイメージとは異なるが、木目金の表現の可能性の広さを教えてくれる。
今回の作品展のかぎとなったのは、米国・ウィスコンシン州マディソンに住み、大学で講師として金工を教え、金工やジュエリーのギャラリーとスタジオスペース「HYART Gallery」のオーナーでもある山田宗子(ひろこ)さん(50)。福岡県福岡市出身で、もとは建築設計を手掛けていたが、21歳のときに初めて渡米し、金工にめぐりあった。
一方、弥彦村に住んで鎚起銅器を手掛ける金工家、西片亮太さん(37)は長岡造形大学の学生だったとき、招待を受けて米国・ポートランドで鎚起銅器のデモンストレーションを行ったこともあり、数年前にポートランドで開かれた日米合同の金工展に、日本の金工家のひとりとして出展。その会場に学生を連れて訪れた山田さんと知り合った。
西片さんを通じて燕市産業史料館の存在を知った山田さんは、たびたび米国の金工家を連れて燕市産業史料館を訪れるようになった。「初めてここに来たときは鳥肌が立った。わたしたちにとってはまるでディズニーランド」。米国にもこれだけの金工作品を常設展示している美術館は存在しない。
山田さんは昨年、米国の作家の木目金作品を日本で展示したいと西片さんに相談。もちろん西片さんは燕市産業史料館を紹介して今回の展覧会が実現し、山田さんが企画監修た。「米国でもこれほどたくさんの金工家の木目金の作品を一度に見られることはない」と言い、「日本で実現したことは米国の作家にとっても意義がある」と喜ぶ。
米国作家のなかに神奈川県横浜市に住む佐藤裕子さん(74)の作品がある。初日3日は会場を訪れた。元ミシガン大学教授で、佐藤さんこそ米国における近代木目金の祖であり、第一人者だ。西欧では1862年にロンドンで開かれた国際万博で初めて木目金が紹介され、その後、ティファニーからも木目金が施された同製品が数多く生まれた。
1970年代から西欧で木目金の技術開発が盛んになったが、その火を着けたのが佐藤さん。立教大学史学科を卒業し、米国内の大学、大学院で金工を学ぶうちに木目金に出会った。木目金を学ぼうと紹介されたのが誰あろう玉川宣夫さん。42歳のころに帰国して1週間ほど玉川宣夫さんの仕事場へ通って木目金の技術を学んだ。
米国で木目金の作品を発表すると、佐藤さんが「そんなに人気が出るとは思わなかった」というほど爆発的な人気を呼んだ。「当時の金工はつるつるした作品しかなかった」。各地で講演したり、ワークショップで指導したりして、米国内で木目金が金工のひとつの技術として認知され、定着。日本語のまま米国でも“MOKUME-GANE”と呼ばれるようになった。
今回、出展している米国の作家はほとんどが直接、あるいは間接に佐藤さんの木目金技術を受け継いでおり、それはまた玉川宣夫さんの技術を継承しているということでもある。
今回は山田さん、佐藤さんとも作品を出展した。米国の出展作家のうち7人は来日し、17日に午前11時から玉川堂、その後、燕市産業史料館を見学することも決まった。また、燕市産業史料館に続いて7月9日から16日まで東京・山脇美術専門学校で同展が開かれる。